自動運転から読みとく国内旅行市場の再生塩谷 英生

①自動運転は旅行市場のセカンドインパクトになるか

2017.03.07

旅行市場の半数以上が自動車旅行

自動運転車が旅行市場に登場することで、どのくらいインパクトがあるのかはまだわかっていません。その影響の大きさを考える上で、現状の自動車旅行市場の規模と構造がどうなっているかを見てみましょう。ここから旅行を宿泊旅行と日帰り旅行に分けて、それぞれデータを分析していきます。

宿泊旅行における自動車利用

図表1を見ると、12年から15年にかけて、日本人の年間宿泊旅行回数(帰省や業務出張を含む)は3億人回前後で横ばい気味に推移しています。また、「自家用車」での旅行回数ですが、“自宅から旅行先間の経路上で最長の距離を利用した交通機関”という条件で見ると、1.3億人回前後で推移しています。このことから、12年から15年までの4年間で自動車旅行回数も、自動車旅行をする人の全体に占める割合も、さほど変化していないと言えるでしょう。なお、15年の自家用車利用率は40.6%(127百万人回/313百万人回)、「バス・レンタカー・タクシー」の利用率は10.1%であり、これも広義の自動車旅行と捉えると、宿泊旅行をする人のうちの約半数が、自動車旅行であることがわかります。

図表1. 宿泊旅行回数の交通機関別内訳の推移(最長距離)

図表1. 宿泊旅行回数の交通機関別内訳の推移(最長距離)

ところで、「その他」の旅行であっても、自宅近くのターミナル駅や空港への足、あるいは観光地での足(「二次交通」とも言います)として自動車が利用されます。そこで、最長距離以外の利用も含めた交通機関別の利用率をみておきましょう(図表2)。

この場合の「自家用車」利用率は50.9%と過半数に上り、広義の自動車利用も「高速バス・路線バス」16.4%、「タクシー・ハイヤー」12.0%、「貸切バス」8.8%、「レンタカー」7.3%を占めています。これらの交通機関は、タクシー・ハイヤーを除けば重複して利用されることが少ないため、広義の自動車利用率は8割を超えると考えられます。従って、自動運転化の影響は、自家用車旅行だけでなく、公共交通機関を利用した旅行にも幅広く及ぶでしょう。

図表2. 宿泊旅行における交通機関利用率

図表2. 宿泊旅行における交通機関利用率

日帰り旅行における自動車利用

さて、次に日帰り旅行における自動車の利用率をみていきましょう(*1)。

15年の調査結果では、日帰り旅行回数(全目的)は2.92億人回で、同年の宿泊旅行者数とほぼ変わりありません。しかし、最長距離での「自家用車」利用は1.50億人回、利用率は51.3%と宿泊旅行を上回っています。広義の自動車利用は18.7%あり、合わせると日帰り旅行の70%が最長距離で自動車を利用していることがわかります。

消費額ベースでみた自動車旅行の市場規模

回数ベースで見た自動車旅行の市場規模をみて来ましたが、産業の視点からみれば消費額ベースの方がむしろ重要です。

やはり「旅行・観光消費動向調査」によれば、15年の宿泊旅行における自家用車を利用した旅行における消費額は6.7兆円に上ります(*2)。このうち、観光・レクリエーション目的に絞ると約4.3兆円で65%を占めます。同様に日帰り旅行における自家用車旅行の消費額は2.1兆円、うち観光・レクリエーション目的で1.7兆円(77%)になります。

宿泊と日帰りを合わせた自動車旅行消費額は9.1兆円となり、うち観光・レクリエーションが6.2兆円(68%)を占めます。

図表3. 旅行種類別・自家用車利用率(2015年)

図表3. 旅行種類別・自家用車利用率(2015年)

自動運転は「セカンドインパクト」になり得るか

自動運転はこの市場規模をどう変えていくのでしょうか。21世紀における旅行市場の最初のインパクトは「インバウンド」でした。その消費額は、2012年の1.1兆円から、3年後の2015年には3.5兆円へと、2.4兆円の増加が見られました。政府のビジョン(*3)によれば、オリンピックイヤーの2020年までに4千万人、8兆円という目標値が掲げられています。16年に訪日客の消費単価が減少に転じたことを踏まえ、仮に6兆円程度に留まると考えた場合でも、9年間で旅行市場を約5兆円拡大させることになります。

自動運転車の普及が、自動車旅行市場9.1兆円にどう作用するのか、自動運転車は「セカンドインパクトになれるのか?」はいずれ観光産業や観光地にとっての焦点となることは間違いありません。仮に自動運転化によって自動車旅行者数が増加し、自動車旅行市場が中期的に1.5倍になれば、消費単価を一定として約4.5兆円の市場拡大につながります。これはインバウンドに匹敵するインパクトです。

また、この9.1兆円という数字には、自家用車を利用しない旅行の消費額は含まれていません。自動運転化が、レンタカーや公共交通機関にも及ぶことで、自家用車以外を利用する国内旅行市場やインバウンド旅行市場にも大きな効果が期待されます。但し、従来の交通モードである鉄道や高速バス等を用いた旅行需要が自動運転車に代替される効果も予想され、ある程度相殺された効果となると考えられます。 

旅行が自動運転車の普及をうながす?

2015年の宿泊旅行と日帰り旅行を合わせた自動車旅行回数は延べ2.77億人回に上ります。これが膨大な量であることはわかるのですが、果たして“旅行”とは自動車の利用の何%を占めるものなのでしょうか。ここで、少し視点を変えて、自動運転が普及していく上でのフックとしての旅行の重要性について考えてみましょう。

まず参考として、自家用車向けの燃料代の総額に占める我が国の国内旅行の燃料代のシェアとして試算をしました(図表4)。統計の制約から試算の年次は2014年となっています。筆者の試算では自家用車の燃料消費総額は7.7兆円、これに対して国内旅行の燃料代は1.1兆円で、その比をとった国内旅行のシェアは14.2%となりました(*4)。つまり、マイカーの利用において旅行のウェイトは七分の一に留まるということです。これを低いとみることもできますが、しかし自動車旅行の総日数は7.4億人日(*5)、日本人一人あたりで計ると年間で約6日に過ぎないことを思えば、自動車旅行というものがいかにマイカー所有者にとって「非日常」的なある種のイベントであるのかがわかります。

「2015年度 乗用車市場動向調査」(一般社団法人日本自動車工業会・16年3月)では、「自動運転を活用したい場面」について自動車保有世帯に質問をしています。その結果をみると、「家族とのレジャー」が46%でトップになっている他、「個人の趣味・レジャー」が31%、「友人・知人とのレジャー」が19%に上っています。つまり、「観光・レクリエーション」は燃料費ベースでみたシェア以上に、自動運転の活用については高いインセンティブを産み出しているのです。

図表4. 自家用車燃料消費額に占める国内旅行のシェア(2014年試算値)

図表4. 自家用車燃料消費額に占める国内旅行のシェア(2014年試算値)

図表5. 自動運転を活用したい場面

図表5. 自動運転を活用したい場面

*1 ここで言う日帰り旅行の定義は「片道80kmまたは移動と滞在を含め8時間以上の非日常圏への旅行」。
*2 宿泊旅行市場全体の消費額は15.8兆円、日帰り旅行全体の消費額は4.6兆円。
*3 資料:「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月)
*4 出張業務の場合、会社負担額は回答されないこともあるため、実態よりやや過少推計である可能性もある。
*5 自動車を利用した宿泊旅行と日帰り旅行について「旅行・観光消費動向調査(2015年確報)」より試算

①自動運転は旅行市場のセカンドインパクトになるか