本当に必要な高齢ドライバー対策は何か市川 政雄

③多様な人が移動しやすい社会へ

2017.03.28

わが国で乗用車が大衆化しはじめたのは50年前、「マイカー元年」と呼ばれる1966年のことである。その当時、乗用車の世帯普及率は10%を超えたところであった。しかし、その後10年あまりで普及率は50%(1978年)、25年で80%(1991年)を超えた。2010年の全国都市交通特性調査によると、外出時の移動手段に自動車が占める割合は平日で46%、休日で61%に上り、その割合は地方都市だとさらに高い。もはや私たちの生活に車は欠かせない。

車の普及は人とモノの移動を容易にしたが、その一方で生活圏の拡大・郊外化、そして公共交通網の縮小・衰退を招いた。その結果、車がなくては生活しにくい地域が増えてしまった。そのような地域では「買い物難民」に象徴されるように、運転をやめると移動手段を欠き、日常生活が不自由になる。これは運転をやめたいと考えはじめる高齢者にとって厳しい現実である。そればかりか、高齢者を対象にした欧米の研究によれば、運転をやめることで社会的なつながりが失われ、メンタルヘルスの低下や施設入所、死亡のリスクすら高まりかねない。

そのような地域で高齢者が活動的に暮らしていくためには、おもに2つの対策が求められる。1つは、高齢ドライバーが安全に運転を続けられるような支援である。現在、高齢ドライバーには免許更新時に講習が課されているが、講習に事故予防の効果はみられない。それは講習でヒューマンエラーを防ごうとしても限界があることの表れなのかもしれない。そこで私たちに必要なのは、ヒューマンエラーが起きない仕組みである。その究極の仕組みが車の完全な自動運転である。しかし、それでは運転の楽しみが失われ、生活機能の維持にも反するかもしれない。実際にはこうした効用を残しつつ、各自のニーズに応じた運転支援ができるとよい。

もう1つは、移動に徒歩や自転車、公共交通で事足りる地域をつくることである。そのような地域では車を運転しなくても生活ができるので、運転しない人が増えれば交通量が減り、事故も排ガスも減る。また、身体活動が伴う移動は健康によい。このようなコンパクトシティを創出するには、運転をやめることのメリットがデメリットを大きく上回るようでなければならず、公共交通や地域のあり方がその成否を左右する。

これら2つのアプローチはまったく異なるようにみえるが、交通のバリアフリー・ユニバーサルデザイン化という点では一致しており、高齢ドライバーにとどまらず多様な人の移動を容易にする。人びとの移動を支える社会の仕組みはいつの時代も必要であり、時代とともに変化する。そこで大切にしたいのが、私たちはどのような暮らしを望み、それを実現するため、どのような地域社会を創造していくのかという構想である。そのような構想を大事にすれば、車社会のあるべき姿がきっとみえてくるはずである。

③多様な人が移動しやすい社会へ