これからの自動運転と福祉デザイン川村 匡由

②自動車の普及とライフスタイルの変化

2017.01.26

日本は第二次世界大戦後、高度経済成長を遂げ、自動車も庶民の移動手段となった。好きなときに好きな場所へ行ける移動手段として、家族や恋人、友だちなどと自由に楽しめるものとして、庶民から歓迎された。

とりわけ、東洋工業(現マツダ)の「キャロル」や鈴木自動車工業(同スズキ)の「フロンテ」、本田技研工業の「N360」、それにトヨタ自動車の「カローラ」と日産自動車の「サニー」という軽自動車や大衆車はその先鞭をつけた。

このような自動車の大衆化は「モータリゼーション」といわれたが、その原動力となったのが1964年、東京で開かれた東京五輪だった。それというのも、政府はその開催に併せ、東海道新幹線の開通と同時に東名・名神両高速道路や首都高速道路を整備したからである。自動は、カラーテレビやクーラーと併せて「3C」あるいは「新・三種の神器」と呼ばれ、あこがれの対象となった。

その後、「日本列島改造論」を掲げた田中角栄により、山陽新幹線や上越新幹線、東北新幹線などと競うように、山陽自動車道や関越自動車道、東北自動車道など、各地に高速道路が整備・拡充され、モータリゼーションを加速した。

モータリゼーションを加速化した道路建設(神戸市にて)

モータリゼーションを加速化した道路建設(神戸市にて)

「いつかはクラウン」──。

自動車はその後、大衆車から中型車へと国民のニーズが高まったため、トヨタ自動車の「コロナ」と日産自動車の「ブルーバード」はファミリーカーとして人気を二分した。そして、人々はより高級感があり、かつゆったり座ることができるトヨタ自動車の「クラウン」に乗り換える夢を描いた。

このようなモータリゼーションは、都市部と地方を結ぶカーフェリーやレンタカーなどという副産物まで生み、ライフスタイルのあり方をますます多様化させた。その結果、週末や日曜・祝日、あるいは連休や旧盆、年末年始ともなると各高速道路は家族連れや若いカップルの自動車で大渋滞するまでになった。

家族連れなどのマイカー族でにぎわう高速道路(群馬県上里町の関越自動車道・上里サービスエリアにて)

家族連れなどのマイカー族でにぎわう高速道路(群馬県上里町の関越自動車道・上里サービスエリアにて)

また、デザインやスタイル、スピード、さらには耐久性を競い合う自動車レースが内外で開催されるようになると、若者の間でクーペやハードトップなどといったスポーツタイプの自動車に関心が集まり、トヨタ自動車の「トヨタ2000GT」や日産自動車の「フェアレディZ」、「スカイライン」などが羨望(せんぼう)の的となった。「マイカーがなければ彼女はできない」など言われたのもこのころである。

バブル経済を迎えると、日産自動車は「プレジデント」、トヨタ自動車も「トヨタセンチュリー」など高級志向のモデルを開発した。もっとも、このクラスは車体が大きく、お抱えの運転手付きの法人や要人向けのVIP車という位置づけであった。これを見据えるかのように日産自動車が発売した国産車初の3ナンバーの高級車「シーマ」は、爆発的な人気を呼び「シーマ現象」とまで言われた。

しかし、バブルがはじけ減速経済に入ると、人々は節約モードにライフスタイルを一変させた。若者を中心に自動車への関心も薄れ始め、地下鉄や路線バスが整備されている都市部では、“マイカー離れ”が進むことになった。

近年は、多くの人数が利用できるワンボックスカーやキャンピングカー、SUV(スポーツ用多目的自動車)が、これまでのファミリーカーやスポーツタイプの自動車に代わって人気を得ている。

とくに、キャンプやアドベンチャー、トレッキングなどのアウトドア・アクティビティに、これらの車が多く用いられている。中高年の家族連れや、子育てや老親の介護が終わった高齢者夫婦が、週末や旧盆、年末年始に行楽や帰省などで各地に出かける光景も、多数見られるようになった。

休日にワンボックスカーなどでリラックスする家族連れ(長野県軽井沢町にて)

休日にワンボックスカーなどでリラックスする家族連れ(長野県軽井沢町にて)

モータリゼーションはこのように人々のライフスタイルを変化させていったが、負の側面も大きい。愛知、東京、大阪の大都市圏や、土地が広く交通の取り締まりが難しい北海道などを中心に、1950〜70年代や1990年代に年間1万人以上の死者が出るなど、交通事故の多発が問題となった。また、排気ガスや騒音など生活環境への悪影響、化石燃料の枯渇問題、地方における電車や路線バスなど公共交通機関の経営難に伴う廃止といった結果をもたらしもした。

近年は、高齢者や障害者など、社会的、経済的弱者に配慮した福祉車両がお目見えするなど、人々の新たなライフスタイル、あるいは人に優しいまちづくりにマッチした自動車が重宝されるようになってきている。自動運転の開発もこのような背景を受け、一世紀余りにわたる自動車の歴史に新たなページを加えようとしている。

②自動車の普及とライフスタイルの変化