イギリスの本音

谷本 真由美

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谷本 真由美
谷本 真由美 (たにもと・まゆみ)
公認システム監査人(CISA)。専門は欧州情報通信政策および市場分析、内部統制、ITガバナンス、プロセス改善等。NTTデータ経営研究所、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関を経て2008年よりロンドンを拠点に日本と欧州を往復しながらコンサルティングに従事。Syracuse University 国際関係論および情報管理学修士。
Twitter @May_Roma

Googleが自動運転車の開発に乗り出し、2016年にはイギリスで世界初の自動運転車に関する法律が作られるなど、自動運転車を取り巻く環境が急激に揃いつつあります。

その一方で、「車」というモビリティ手段の自動化は、自動車と情報通信の融合という技術的なパラダイムシフトのみならず、人間社会の「あり方」さえも大きく変えていく可能性を秘めています。

まず第一に、人間と移動の関係性は変わっていくのかどうかです。人間の「意志」によって移動していた車が自動化されると、人間の移動の仕方や行き先は変わるのか。車の運転は仕事や義務ではなく楽しみ的なものに変わっていくのか。

第二に、社会制度にも大きな変化が訪れます。道路交通法を始めとする法律の変化、保険制度の変化、道路行政の変化、街作りの変化。車が自動化されることは、街の作りそのものが変化することを意味します。事故の過失は誰が責任を取るのか。車がハッキングされるのを防ぐにはどうするか。

第三は経済の問題です。トラックやタクシーの運転が自動化されることで仕事を失う人々はどうなるのか。自動運転は生産性向上に貢献するのか。自動車業界はどう変わっていくのか。

日本では技術そのものや自動運転の利便性が話題になることが多いのですが、上記の3つの論点に関しては深い議論が進んでいないように思います。

ロンドン イメージ

私はここ数年日本と欧州を往復して生活しています。イタリアのローマには4住み、その後はロンドンを拠点にしています。米軍基地の近くで育ち、テキサスとニューヨークで留学生活を送ったので、20代後半まではアメリカどっぷりの生活でした。ところがひょんな事からローマでの仕事を得て欧州に住むことになりました。

欧州では車が生活の手段であるアメリカや、技術の方が注目を集める日本とは話題のベクトルが少々違います。

欧州はアメリカに比べると小国の集まりです。移動は人々の権利として認識されているので公共交通機関が発達した国が多く、中世そのままの小道や石の建物に囲まれた小さな町も少なくありません。このような地理的、歴史的条件があるので、車というのは生活の手段というよりもスタイルである、という人が多くいます。アメリカとは大きな違いです。

どの国も伝統を重んじるため、景観や町作りを重視します。都市計画には慎重です。第二次世界大戦の空襲で町が破壊された国であっても、戦前の建物や町並みを再生しました。さらに、南部を中心として雇用問題に悩む国が少なくないので、労働市場の変化にも敏感です。

これらの理由から、自動運転車に関しては上記三点に関する議論が盛んであり、アメリカや日本とは興味のベクトルが異なります。

この連載では、イギリスを中心として、欧州における自動運転を取り巻く事柄を、特に社会制度や行政の視点からお届けできればと考えております。

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谷本 真由美 (たにもと・まゆみ)
公認システム監査人(CISA)。専門は欧州情報通信政策および市場分析、内部統制、ITガバナンス、プロセス改善等。NTTデータ経営研究所、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関を経て2008年よりロンドンを拠点に日本と欧州を往復しながらコンサルティングに従事。Syracuse University 国際関係論および情報管理学修士。
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