自動運転のための社会インフラ学特集1

根本祐二・老朽化はチャンスだ──自動運転のための整備

2017.02.21

『朽ちるインフラ』を著し、深刻になる日本のインフラ老朽化について警鐘を鳴らした根本祐二・東洋大学経済学部教授が、自動運転を用いたインフラ老朽化問題解決の糸口を示す。全2回。

根本祐二

いつ橋が落ちるかわからない──日本のインフラ老朽化

自動運転車が走る未来に日本のインフラがどうなるかを話すまえに、まずはインフラの現状について整理しよう。今私たちが使っている公共施設や、道路、橋梁、上下水道といったインフラの老朽化問題は、2020-30年の間に本格化する。このまま何も手を打たなければ、橋が突然落ちたり、水道管の破裂や道路の陥没といったニュースは珍しいことではなくなるだろう。遠い先のことではない。これを放置すれば住民の生命や財産に大きな影響を与え、維持補修や更新に多くの人員と予算を必要とする厄介な問題になる。

ではなぜ、2020-30年に課題が集中するのか。それは、五、六十年前の高度成長期、オリンピック後をピークとした集中投資によって大量のインフラが整備されたことに起因する。当時、インフラの集中投資は経済的にみても望ましいことだった。インフラ工事により雇用が増えることと、実際に移動や生活が便利になり、経済が活発になることが連動していたからだ。1964年の東京五輪をきっかけとし、いち早くインフラを整備することで、日本は便利で豊かな国になることができた。

ところが当時、いずれ必ずくるインフラの老朽化をまったく念頭に置いていなかった。たとえば、橋梁の年間建築数は巨大なピラミッドを構成しており、最も多い時が1970年代で、年間1万本もの橋を架けている。その後、橋梁にかける予算は徐々に減っていき、近年は年間1千本、ピーク時のおよそ10分の1だ。橋梁は大体五、六十年で老朽化するため、1970年に建てた橋は、2020-30年代に架け替えなければならない。つまり、年間1万本の橋を架け替える必要があるのだが、そのための予算は1千本分しかないのである。

橋梁建設年度別施設数

出典:国土交通省調べ

投資が集中したから老朽化も集中する、これは当然の成り行きだろう。念頭に置いていればできたはずの計画的な更新投資なり修繕なり、長寿命化を行なっていなかった。これが日本のインフラ老朽化を深刻な問題にしている。

「どうしようもないので建て替えます」といって行き当たりばったりの更新を繰り返しても、予算がない以上一部しか更新することはできない。ならば取り返しのつかない問題が起こるまえに、いまどのインフラを残すべきか、明確な基準のもとに優先順位をつけていくべきだ。しかし、国や多くの自治体には、その選定基準がまだない。話題のオリンピックや再開発への投資も、古い建物を建て替えているという意味でインフラの老朽化対策になってはいるが、今必要なのは計画性だ。今の日本には国の機能を維持しながら、まず何を更新して、どのインフラは更新しなくともいいのか、という計画性がないのだ。結果的に政治力のあるところや、声の大きいところに予算がついてしまう。

自動運転のための一斉改修がチャンスをもたらす

ここで問題になるのは、道路や上下水道といったインフラだ。例えば学校であれば、統廃合してしまっても通学距離が遠くなるだけだが、道路や路面下の上下水道、電気やガスというのは、突然なくなったら生活が成り立たない。また、こういったネットワークインフラは、A地点とB地点の間を全て結んでいなければ意味がない。優先順位をつけて、途中のどこかを抜いてしまうということが非常に難しいという特性を持っている。

しかし放っておくわけにもいかない。下水道管の破損に起因する道路の陥没事故は、実は日本全国で年間約3,300件も起きている。だから、路面のことを心配するだけではなく、水道管なり、下水道管なり、あるいは電力ケーブルやガス管といった道路の中に入っているものすべて含めて、今一斉につくりかえなければならない。

この「一斉につくりかえなければいけない」ということは、実はチャンスでもある。みんな一緒に老朽化しているんだから、一緒につくりかえたらどうですか、というわけだ。

そもそも、ネットワークインフラは非常に錯綜していて、水道管やガス管を含めて全ての構造がわかる図面がないほどだ。しかし、あらゆるインフラが老朽化しているいま、一斉に修繕を行うことによって、錯綜したガス管や水道管の配列を変えることができる。100年くらいもたせるつもりで、ゼロから最適なインフラ設計を考えてつくりかえることもできるだろう。

ここで、自動運転が登場する。自動運転が普及するためには、地表か地中になんらかの設備を入れる可能性がある。それなら、自動運転に必要なインフラも同時に組み込むことができるのではないか。地中インフラの更改タイミングと合わせて、自動運転の設備を全て入れることができれば、インフラ整備にかかる財政負担を大幅に削減できる。

たとえば、道路が共通に持つべきITインフラを一つ決めて、それを水道も下水道も地下鉄も、そして自動運転サイドも共通に使うようにする。そのITインフラはパッケージ化されていて、どんどん新しいものと取り替えられるようにしておくこともできるのではないか。

ITインフラにインフラの点検を任せることもできるだろう。今一般道路の点検はほとんど人による目視と打音検査、あるいは、スキャンの機械を積んだ車によって計測している。これはこれで性能は高いのだが、点検のための人的、また資源的負担を考えた時、道路の側でそれを行なってくれた方がいい。

こうしたことを今後10年、15年のうちにできるように、今から対話を始めないといけない。それがインフラ更改の期限だ。あと10年もすると道路の陥没などが多発し、計画的な更改なんてことは言っていられなくなる。大急ぎの応急修理では短期的なつぎはぎのインフラがそのまま残ってしまうだろう。それでは後世に負の遺産を引き継いでしまうだけだ。自動運転に必要な設備も含めた、ネットワークインフラの整備はまだ十分間に合う。しかし、それに取り掛かる期限はすぐそこに迫っていると言えるだろう。

根本祐二・老朽化はチャンスだ──自動運転のための整備