新制度設計と立法TMI総合法律事務所

③自動運転車(レベル3)の事故と運転者の法的責任

2017.02.23

1 はじめに

「自動運転車(レベル1・2)の事故と運転者の法的責任」では、現行法における自動車事故の過失の考え方について概観した上で、レベル1・2の自動運転車の事故が生じた際の運転者の責任について解説した。

本稿では、さらに論を進め、レベル3における運転者の責任について検討したい。レベル2までは、運転者が主体的に操作を行い、自動運転プログラムはそれを支援するという位置付けだが、レベル3では原則と例外が逆転し、原則として自動運転プログラムが主体的な操作を行うようになる。自動運転プログラムによる操作と運転者による操作が混在するレベルであり、過失の有無に関する判断もレベル1・2のように容易ではない。

2 レベル3の場合

レベル3の自動運転車では、自動運転プログラムが稼働している間(自動運転モードの状態である時)は、原則として自動運転プログラムが全ての操作を行い、運転者は一切の操作をしない。もっとも、自動運転プログラムの機能限界時などには、運転者に操作権限が移譲され、その場合には運転者が自ら運転操作を行うことが前提とされている。この意味ではレベル3はあくまでも「限定的な」自動運転車なのである。

したがって、レベル3の自動運転車の事故における過失責任については、自ずと議論が複雑とならざるを得ない。本稿では、レベル3に関する複雑な議論をできるだけクリアにするため、まず(A)運転者に操作権限が移譲されなかった場合と、(B)運転者に操作権限が移譲された場合に分けて、その上で(B)についてさらに、(B-1)権限委譲されたにもかかわらず運転者が自ら運転操作を行わなかったために事故が生じた場合と、(B-2)権限移譲され、運転者が自ら運転操作を行ったが、運転操作を誤るなどして事故が生じた場合に分けて考えてみたい。

レベル3の自動運転車の事故と運転者の法的責任(筆者作成)

レベル3の自動運転車の事故と運転者の法的責任(筆者作成)

(A)運転者に操作権限が移譲されなかった場合

設例1:Aは自動運転車(レベル3)の運転席に座って自動運転モードで走行中、スマホを操作し前方を注視していなかったところ、道路左側路地から別の車が突然飛び出してきた。自動運転プログラムがAに操作権限を移譲することなく、自動運転車はその車に衝突してしまった。

前述のとおり、レベル3の自動運転車では、自動運転プログラムの機能限界時などにおいて例外的に運転者に操作権限が移譲された場合を除き、原則として自動運転プログラムが全ての操作を行い、運転者は一切の操作をしない。

このことは、裏を返せば、自動運転プログラムが運転者に操作権限を移譲しない限りは、原則として運転者は自動運転プログラムの操作を信頼して良いということが前提とされているといえる。

レベル3の自動運転車はまだ市販されていないが、市販された場合には運転者は自動運転プログラムによる運転操作を大きく信頼することになると予測され、自動車メーカーも、運転者に対しハンドルから手を離すことなどを含め一定の操作を自動車に委ねることを許すことになるだろう。法律上も、現行の道路交通法では「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」とされており(同法70条)、ハンドルから手を離して運転することは原則として認められていない。しかし、レベル3の自動運転車が普及した段階では上記道路交通法の規定内容またはその解釈も見直される可能性があり、たとえば、自動運転中におけるスマホの操作やテレビの視聴などの「セカンドタスク」が許容されることもあるかもしれない(ドイツのアウディ社は、車載ディスプレーなど車の機能に統合された端末を見ていれば、前方から視線を外しても問題ないという方向で、アメリカ、欧州の当局とは既に合意しているという *1)。ただし、「セカンドタスク」が許容されるようになるには、安全性に関する技術的な裏付けと、社会的合意が必要であろう。

このように、「セカンドタスク」が許容されるようなレベル3の自動運転車が普及した社会を想定すると、レベル3の自動運転中においては、運転者への権限委譲が行われない限りは、自動運転プログラムが適切な操作を行うことが前提であり、運転者もそのことを全面的に信頼するのが通常となることが予想(期待)されるため、その結果として、権限委譲前において運転者が事故の発生を予見することは極めて困難となり、原則として運転者の過失は認められなくなると考えられる。したがって、設例のケースでも、Aの過失は認められない可能性が高いだろう。

もっとも、例外的な場合には、運転者への権限委譲が行われていなくても、運転者が自ら積極的に操作に介入する義務(「オーバーライド義務」とでも言おうか。もちろん、これは運転者がいつでもオーバーライドできる仕様になっていることが前提である。)が発生する余地が否定できない。たとえば、自動車が明らかに異常な挙動をしており、自動運転プログラムが故障していることが明白である場合が考えられる。もっとも、このような場合は例外的な場合であり、現実的にはあまり想定し得ないように思われる。

(B)運転者に操作権限が移譲された場合

(B-1)権限委譲されたにもかかわらず運転者が自ら運転操作をせずに事故が生じた場合

(A)の権限委譲されなかった場合には、原則として過失は認められないと述べたが、それでは次に、(A)とは異なり、権限委譲がされたにもかかわらず、運転者が自ら運転操作をせずに事故が生じた場合はどうか。次のような場合を考えてみる。

設例2:Aが自動運転車(レベル3)に座って自動運転モードで走行中、前を走っていたトラックの車体が西日を受けてAの車に強く反射したことにより、Aの車のセンサーの正常な動作が不可能な状況となった。そこで自動運転プログラムがAに操作権限を移譲したが、Aはつい居眠りをしてしまっており、自ら運転操作をしなかったところ、道路左側の路地から飛び出してきた別の車をセンサーが感知できず、その車に衝突してしまった。

前回の記事にて解説したとおり、不法行為の要件としての過失は、結果を予見し、結果を回避することができたにもかかわらず、結果を回避しなかったことであるから、自動運転プログラムの機能限界時において運転者が操作権限を移譲されたにもかかわらず自ら運転操作をせずに事故を回避できなかったからといって、必ずしも運転者に過失が認められるというわけではない。

しかし、レベル3では、いつ自動運転プログラムから操作権限が移譲されるか分からないから、運転者は常に権限移譲に備えておく必要があると考えられる。したがって、権限委譲前の運転者の状況、言い換えれば運転者がなぜ自ら運転操作できなかったか、という点が過失の有無の判断に影響を与えると考えられる。もっとも、果たしてどのような態勢をとってどのような備えをしていれば権限委譲に対する備えができていたといえるかは問題である。たとえば上記設例におけるAのように、運転者が運転中に眠ってしまっており自ら運転操作できなかったという場合で、自ら適切な運転操作をすれば事故の回避が可能であったならば、過失が認められる可能性が高いだろう。それでは、同乗者と話をしながら時折前方を確認していた場合や、ほんの少しの間スマホを操作していた場合はどうか──。現在の一般的な非自動運転車と現行法を前提とすればこれらのケースでも過失ありと判断される可能性が高いと思われるが、レベル3の自動運転車が普及した時代にも必ずしも同様の結論となるとは限らない。この点は、自動運転車の普及の程度、一般的な運転者の自動運転車に対する信頼の程度、自動運転機能に対する自動車メーカーの意図、道路交通法上の安全義務の範囲に関する解釈論などを考慮し、運転者がどこまで自動運転機能に依存することが許容されるかといった観点から今後議論されるべき問題である。

また、システムの機能限界時の大半はかなりの限界的な緊急事態であることも多いと思われ、そのような時点で自動運転プログラムが運転者に操作権限が移譲したとしても、運転者が自ら運転操作をする余裕もないといった場合も考えられる。このような場合には、結果発生を全く予見できなければ予見可能性が否定されるであろうし、予見自体はできたとしても運転者が瞬時にハンドルやブレーキ操作をすることを期待することができなければ結果回避可能性が否定され、いずれにしても過失が認められないことになろう。

(B-2)権限移譲され、運転者が自ら運転操作をしたが事故が生じた場合

設例3:Aが自動運転車(レベル3)に座って自動運転モードで走行中、前を走っていたトラックの車体が西日を受けてAの車に強く反射し、Aの車のセンサーの正常な動作が不可能な状況となった。そこで自動運転プログラムがAに操作権限を移譲し、Aが自ら運転操作をしたが、そのときにはすでに道路左側の路地から別の車が出てこようとしており、Aはそれに気付いて慌てて急ブレーキを踏んだものの、間に合わずにその車に衝突してしまった。

次に考えるべきは、権限委譲後に運転者が自ら運転操作をしたにもかかわらず事故が発生したという場合である。

(A)および(B-1)のケースとは異なり、運転者が自ら運転操作をした以上、その後は、通常の手動運転(レベル0)と同様と考えられる。したがって、予見可能性と結果回避可能性があれば、当然に過失は認められることとなる。

ただし、最初から手動運転をしている場合とは異なり、運転者は権限委譲によって突然操作を要求されることから、仮に自ら運転操作をしたとしても事故の発生を回避できるとは限らない。したがって、権限委譲が行われたタイミングやそのときの自動車を取り巻く状況などを考慮し、権限委譲の時点において運転者に結果回避可能性があったかという点が主な焦点となろう。

上記設例の場合には、Aに権限委譲が行われた後、合理的に可能な限り素早くブレーキを踏んだとしても衝突を防げなかったとすれば、結果回避可能性がなくAには過失が認められないことになる。なお、このような結果回避可能性の観点からは、いつどのタイミングで自動運転プログラムがアラートを行い、運転者に権限を委譲するかは、重大な問題であることが示唆される。

なお、権限委譲の前における運転者の状況についても過失の判断に影響を与える可能性がある。すなわち、運転者が居眠りをしていたため、権限委譲が行われた後、自ら運転操作を行うタイミングが遅れ、それによって事故が生じたといった場合には、(B-1)の設例の場合と同様に、過失が認められる可能性は高いと思われる。

3 今後を見据えて

レベル3の自動運転車の運転者の過失について、現行法の枠組みにおける帰結としては、運転者は、自動運転モード下であっても権限委譲に備えておく必要が一定程度あり、かつ権限委譲がされた場合には、自ら通常の手動運転時と同様の運転操作を行うことが求められるということである。もっとも、仮に現行法のままレベル3が普及した場合には、自動運転中に事故が発生した場合に、それが運転者の過失によるものか、自動車メーカーや部品メーカーによる過失(製品の瑕疵など)によるものか、それとも自動運転車に地図などのデータを提供した情報提供者の過失(情報の誤りなど)によるものか、といった点(またこれらのうち複数の者に過失が認められる場合にはそれぞれの過失の割合)を裁判において立証していくことになろうが、そのような立証には膨大な時間や費用を要するし、そもそも原因の立証・検証が困難な可能性もある。したがって、今後、法律を整備し、保険制度を改革することによって、自動運転車による事故の責任を誰にどのように負わせていくかという問題に対して一定の方向性を示していくことが求められるであろう。

文・弁護士 木宮 瑞雄(きみや みずお)

*1 日経ビジネス2016年9月5日号30頁

③自動運転車(レベル3)の事故と運転者の法的責任