自動運転に必要な道路大口 敬

②自動運転では信号機も道路標識もいらない?

2017.04.17

自動車同士が交信する自動運転車は、お互いに適切な速度とタイミングを調整することで、交差点を止まらずに通過することができるだろう。だとしたら交差点には信号機は不要になるのではないか。また、自動運転で目的地まで連れて行ってくれるとしたら、交差点の案内標識や、「国道何号」といった道路標識も一切不要になるのではないか。そんな思いを抱く人も多いだろう。しかしこれは本当だろうか。

そもそも信号機とは何のためにあるのだろう。その重要な機能の一つは交差点の「交通容量の最大化」である。運転者からすると赤信号待ちは無駄な時間だが、実は交通全体から見ると、信号機で車両の塊を作ることによって短時間でより多くの車両が交差点を通過できるようになっている。

つまり、信号機の役目である「交通容量の最大化」は、あえて車の塊を作ることで可能となる。だとすれば、車両同士が通信で繋がる自動運転では、周辺車両同士が走りながら車群を形成できるため、わざわざ赤信号で待つ必要はないのではないか。

しかしここでもう一つ気をつけなければならないことがある。交差点に進入する複数の方向で連携がとれず、それぞれバラバラに車群を生成してしまう場合である。この場合、結局各方向の車群同士でタイミングを合わせなければ、一時停止無しに交差点を通過できるとは限らなくなってしまう。そのため、各方向の車群の通過タイミングを調整する役割はどうしても必要である。

また、今我々が利用している交差点それぞれの信号機は、交通管制センターによって一括管理され、隣り合う交差点で停止を繰り返すことを防ぎ、道路ネットワーク全体の効率性を確保している。このことを考えると、信号機に代わる「調整役」は、周辺交差点も含めて車両の通過タイミングを調整する必要があるだろう。とくに交差点間隔が短い都心部で、かつ交通量が多い場合には、こうした調整に費やす空間が確保できずに、交差点手前で大きな減速、または停止も発生し得る。いつどの方向をやむを得ず停止させるか、やはり全体の効率を俯瞰した調整役が不可欠だ。

こうしてみると、たしかに全ての自動運転車同士および路車間が通信で繋がり、車群形成や交差点通過タイミングを調整ができれば、信号灯器そのものは不要になるであろう。しかし、自動運転システム全体を最適化するためには、引続き各車両とは別のインフラが必要になると考えられる。むしろ自動運転時代には、信号機が担っていた調整役に相当する新しい交通管制センターは、車群の形成とその通過タイミング、さらに経路誘導など、これまでの信号表示設定よりさらに重要で多様な機能を持つ必要がある。

なお、今でも交通需要が十分に低ければ信号機は不要であり、各車両が自律的に安全を確認して交差点を通行している。高度なセンサと相互通信機能を有効に活用して瞬時に判断できる優秀な自動運転車であれば、現状よりも高い交通需要であっても、個別の車両が自律的に安全に交差点を通行できる可能性がある。

さまざまな交差点の例

さまざまな交差点の例

では標識はどうか。道路に設置される標識には、制限速度、駐車禁止、右折禁止などの「規制標識」、急カーブや飛び出しなど注意喚起のための「警戒標識」、駐車場所などを示す「指示標識」、および、案内・誘導のための「案内標識」がある。いずれも、自動運転車の持つ詳細な道路地図に規制・警戒・指示・案内の内容を組み込んでおけば、自動運転車がこの情報を参照して走行すれば良いので、道路上の標識看板は不要になるものと一般には考えられている。

各種標識の例

各種標識の例

しかし、いくら完全自動であっても、その乗客(もはや運転者ではない)は、時に自分が今どこにいるのか、どの方向へ向かっているのかを確認したい場合もあるのではないだろうか。人はカーナビ地図上で自車位置表示があればいい、ということではなく、周りの風景、情景を理解したい、あるいはあやふやな記憶と現在位置との関係を確認したい、などと思うのではないか。つまり実空間を「現認」したい、という欲求があるのではないだろうか。

逆説的に言えば、目的地に到着するまでどこをどう通っているのか全く分からず、気まぐれな寄り道もできない、というシステムで、本当に利用者は満足するのだろうか、ということだ。

自動化が進むことで、人間はより人間らしく、楽しく、活き活きと生きていけるようになるべきだと考えると、経由途中の場所の「現認」は極めて重要なことである。この現認を実現するためには、道路上や周辺に「目印」が必要だ。もちろん、お店や有名な山などの景色も目印になり得るが、人間の目で見て位置を系統的に把握できるシステム、いわば「目印標識」(マーカ)を道路上に設置しておくことは、極めて有効である。カーナビという仮想空間上で自車位置と共に同じマーカが表示され、乗客はこれと現認結果を照合することで、その時点の自動運転車の位置と走行方向などを確認することができる。

目印に特化した標識の例「ココ!マーク高知」

目印に特化した標識の例「ココ!マーク高知」

以上のことから、自動運転車が普及したとしても、信号機に代わる「交通管制センター」のような役割は必要である。また、道路上の標識の多くは撤去できるが、場所・位置を現認するためのマーカ機能に特化した目印標識は、自動運転を全体管理された味気ないシステムにしないためにも必要だろう。この目印の仕組みが、自動運転社会において、ヒトの気まぐれな寄り道という創造的な行為を可能にするのである。

②自動運転では信号機も道路標識もいらない?