自動運転のための機械学習講座
大関 真之
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社会を見渡すと多くの情報で溢れている。スマートフォンですら大量の画像データが保存されている。そんな大量かつ大規模のデータから、この世の法則を取り出すことはできないだろうか。著者が理論物理学を専攻した理由は、この世の法則を自然から見出そうと求めたためだが、人間の活動も、そのような世の中の法則に縛られているはずだ。理論物理学者が、人間の活動に関連したデータから、この世の法則を解き明かそうというのは自然なことではないだろうか。
理論物理学の根底には「世界はシンプルな法則でできている」という考え方があり、そのシンプルな法則を解明することを目的にしている。自動運転技術の開発のために、その考え方は馴染むだろうか。それは簡単な問いかけからわかることだ。
私たちは運転するときに何を重要な要素と捉えているのだろうか。また、近い将来、自動運転が実用化され、複数のルールで動くモビリティ(完全自動運転のモビリティと、人が運転するモビリティと)が混在するようになったとき、事故や遅延のリスクになるのはどのような要素なのだろうか。その理解を助けてくれるのが、スパースモデリングだ。このスパースモデリングと呼ばれる技術は、大量の情報から本質的な要素を抽出するときや、少数の情報から背後にある重要な構造を明らかにする処方箋となる。
人間は車を運転するとき、「あそこに車がいて、あの標識があって、自分の速度がこうだから……」と、多くの情報を厳密に処理しているわけではない。無意識のうちに、たくさんの情報の中から、自分の行動に関わってくる重要な情報を取捨選択している。しかし、どの要素が重要で、どの要素が不必要なのかを、関数として提示し、機械に理解させるのはとても難しい。スパースモデリングを用いれば、何が判断に影響する重要なパラメータなのか、機械が自動的にそれを言語化することができる。
スパースモデリングのスパースとは「少ない」「まばら」ということを意味する。少ないデータから、その背後にある法則を推察し、何が重要なパラメータかを分析することに、スパースモデリングは優れているのだ。マシンが結果を出力するまでの基準が分かりにくいディープラーニング(深層学習)と異なり、スパースモデリングは、事象をモデル化して重要な要素についての結果を共有、蓄積することができる。
ディープラーニングは自動的に回帰(データから関数を導く)、予測、識別を行い、自ら最適解を探ることができるが、なぜそれを選んだのかを私たちが知ることは難しい。いわばブラックボックスである。いくら優れた技術といえども、人間の問いかけに答えない、そんな悪魔に魂を売れるだろうか? 一方、スパースモデリングでは、重要な要素とそうでない要素をどう分析したのかを知ることができる。人間の直感と比較することが可能なのだ。
この章では、スパースモデリングという「少数だが、存在すると大きな影響を及ぼすもの」を検出する手段を用いて、この世界にどういったイノベーションを起こすことができるのかを考える。