クルマ移動生活の実態
松本 周己
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自動運転車が普及した未来、移動をしながら生活する人が多数現れるとは考えられないだろうか。住居と自動車が一体化した移動型住居を所有し、そのときどきで用のある場所へ向かいながら、あるいは自由気ままに旅をしながら暮らす人たちが増加する社会になる。可能性は排除できない。
2016年現在、住居と自動車が一体化したものといえば、キャンピングカーを指す。キャンピングカーには、小さなキッチンと寝台を設置したミニワゴン型のものから、トイレやシャワーブースまで搭載した住居として本格的に利用ができるタイプまである。しかし多くの車種は中型車に相応するため、長時間、あるいは道が入り組んだ都市部を運転するのは誰にとっても容易というわけではない。しかし、もしその運転が「自動」だったならば……。移動をしながらの生活へのハードルはぐんと下がるはずだ。
自動運転車がどのくらいの精度で「自動運転」するのかは別の著者が論じるだろうが、もしも完全にドライバーが必要ない、目的地を設定するだけでどこへでも連れて行ってくれるような機能を持った場合、今まで操縦に使っていたスペースがまるごとなくなる可能性がある。その場合、従来のキャンピングカーと同じ大きさの自動運転車を作ったとしても住居空間として使えるスペースは広くなり、より快適なクルマ移動生活を送ることができるだろう。
現状、自動車で移動しながら生活しているのは経済と時間にゆとりがあるリタイア層が多い。仕事はせず、身の回りのことと娯楽を中心にして暮らせる人たちだ。しかし、自動運転車が普及した未来、クルマ移動生活をしてみたいと考える人はそれ以外の層にも多く出現するのではないだろうか。寝ている間、あるいは仕事をしている間に好きな場所へ連れて行ってくれる自動運転車があれば、東北の温泉に入った翌日に都内の会議に出席することも困難ではない。
ネットワーク環境は現在でもすでに整備されており、やろうと思えばいつでもどこでも仕事はできるはずなのだ。
それだけではない。食事をしている間、映画を観ている間、ネットショッピングをしている間に移動をすることもできる。好きな場所で、好きなことをすれば良い。好きな場所に行くまでの間の時間が自由になる。夢のような未来だ。
そこでは何かしらの変化が生じるだろう。移動生活によって、日々のコミュニケーション、関わるコミュニティ、ライフスタイル、衣食住への考え方、金銭感覚などあらゆる行動に大なり小なりの変化が訪れるはずだ。それをポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかは個人の感受性によるところが大きいが、どんなことが起こりうるのかは想像できないことが意外と多いのではないだろうか。人は瑣末なことに幸福や苦痛を感じるものである。
ここでは、クルマ移動生活の「サンプル」としてキャンピングカーで10年近くクルマ移動生活を送った著者がその実態を明かす。
著者の身に実際に起きた出来事を紹介するため、個々の経験が誰にでも起こることとは限らない。だがクルマ移動生活を想像するのには役に立つだろう。毎日新しい出会いがあり、毎日違う景色を楽しめる生活の実態を紹介していく。