新制度設計と立法

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1990年設立。企業法務や知的財産法務等、総合的なプロフェッショナルサービスを提供する法律事務所。 知財やAI、IoT分野を得意とする所属弁護士・弁理士が交代で執筆し、未来の社会設計のための検討材料を提供していく。 なお、各論考の意見にわたる部分は、各執筆者個人の意見である。

運転免許を受けないで車を運転してはいけない。酒気を帯びて車を運転してはいけない。これらは道路交通法で決められたルールである。

完全自動運転車が実用化されれば、これらのルールはどう変わるだろうか。運転免許を受けていない小学生は一人で完全自動運転車に乗ってよいだろうか(そもそも運転免許制度は維持する必要があるのだろうか)。自動運転車には酒気を帯びても乗ってよいだろうか。

道路交通法は、遅かれ早かれ、自動運転車を想定した内容に改正される必要があるだろう。

問題は、道路交通法にとどまらない。

自動運転車が自動走行中に人身事故を起こした場合、その事故によって生じた損害について、誰が責任を負うのだろうか。運転者?自動車メーカー?自動運転プログラムのベンダー?また、被害者への補償について、新しい制度を設ける必要はないだろうか。

完全自動運転車同士が接触事故を起こした場合、その過失割合はどうやって決めればよいだろうか。搭乗者が酒気を帯びていた場合、その判断に影響を及ぼすだろうか。

これらは、民法の不法行為や製造物責任法、自動車損害賠償保障法(自賠法)といった法令の解釈適用に関わる問題だ。

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自動運転車の安全基準や試験方法、公道実証実験のあり方、無人タクシー・ロボットタクシー、あるいは完全自動運転車を用いた新しいサービス業に対する新たな規制、ネットワークと接続することが想定されている自動運転車の走行履歴や位置情報、搭乗者の個人識別情報等の取扱いや同意の取得、外部インフラ等から送信されたデータの誤謬に起因する事故・トラブル、道路の瑕疵、地図の瑕疵、自動運転車に対するハッキングやネットワークダウンに関わる責任問題、自動運転車の用いる電波に関するルール、警察による自動運転車を用いた捜査、新しい任意保険・・・全て、今後決めていかなければならないルールである。

このように、自動運転車の実用化と普及にとって、法令その他のルールの持つ意義は非常に大きい。しかし、2016年10月現在、自動運転車に関する法令やルールはまだほとんど何もない状態だ。私たちは、来るべき自動運転車のある社会を見据え、これからいろいろなことを考え、議論し、決めていかなければならない。

どのようなルールを定めるか、私たちがどのような社会を求めていくべきかという問題は、価値の選択の問題である。そこでは、既存の法令の規定や趣旨、過去の裁判例がヒントになることも多いだろうし、海外の法令や裁判例の動向も参考になるだろう。また、これまでになかった新しい制度枠組を設ける必要がある場合もあるだろうし、私たち一人一人の倫理的な決断を求められることもあると思われる。

筆者らは、(広義の)法という視点を用いながらも、様々な角度から、「あるべき自動運転車のある世界」の姿を模索しつつ、議論を整理し、未来の社会設計のための検討材料を提供していきたい。

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