クルマ移動生活の実態松本 周己

①クルマ移動生活者のコミュニケーション

2016.11.02

キャンピングカーで生活し始めたのは、三十代半ばであった2005年。キャンピングカーが自宅兼仕事場であり日常の延長線上というクルマ移動生活に突入した。

よく「出逢いが旅の醍醐味!」などと聞くが、私自身はさほど他人に関心がなく、むしろ避けて通るような性格なので、進んでコミュニケーションを取ろうとはしなかった。しかしネット環境の発達した現代、その気になればいつでも人と繋がることはできる。元からマメな方ではないから、実際には電話もメールも必要なときにしかしなかったが……。移動生活が長くなり、年に1回も会う機会がなくとも、親しい人とは実際に顔を見れば一瞬にして時間を超えてしまうものだ。

自分から進んで声をかけることはなくてもかけられることはあり、そこから会話を楽しむくらいのことはする。この十年強、出会った人々の中では長期の車中泊旅を楽しんでいるのは老夫婦が目立つ。かたや徒歩旅や自転車旅、バイク旅などでは二十代の若者が大半を占め、男性が圧倒的多数だ。車中泊旅でも一人旅なのは男性が多いが、好んで一人旅をしているというよりは「子どもや奥さんがついてきてくれないのでやむなく」という言い方をされるパターンが少なくない。

男性は寂しがり屋が多いのか、一人旅同士でコミュニティを作っていたりする。旅の目的は人それぞれだろうが、社会のしがらみとは無縁なところが旅の良さでもあるはずなのに、なぜわざわざ新たなグループに属して面倒を背負い込むのか不思議でならない。そこまで突っ込んで聞いてみたことはないが、おそらく群れ(コミュニティ)を作る動物のサガなのだろう。

とある日の夕刻、道の駅を訪れたところ併設の温泉施設が臨時休業で仕方なくUターンすると、三十代後半くらいの男性が走ってきて「すみません! ひょっとしてここに停泊しようと思ってます?」と声をかけてきた。聞けば、自分も車中泊するつもりだったが他にクルマが1台もなく、平日の山間部ではこれから客が来るとも思えない、さりとて次の道の駅はかなり遠いのでどうしようか迷っていたという。近くの日帰り入浴施設を教えてくれて、「帰ってきてくださいね!」と見送られた時は笑ってしまった。

たまに、こうした周囲に民家も店もない、クルマが一台もいないような場所に停泊することがあるが、広い駐車場であっても次に来たクルマは必ずといっていいほど近くに停めて来る。こちらはキャンピングカー、いかにも「旅行中です」という雰囲気だから安心するのだろう。

ところで、クルマ移動生活における頼みの綱の“電波”だが、車中泊すると決めた場所でふとケータイを見たら圏外だった、なんてことも稀にある。観光地でも景勝地でもない、山間部や海岸などだ。テレビはもちろんラジオも聞こえず、キャッチできるのはGPSくらい。安全のためにはケータイ圏内にいた方がいいのだが、急ぎの仕事がなければだいたいそのまま停泊してしまう。たとえ1泊でも、いざ連絡がつかなくなると家族や友人が心配するかもしれないので、電波が届かないと予め分かっている場合はメールなどでその旨を伝えておく。

ライトを消せば360度、真っ暗闇。満天の星が空を覆う夜もあれば、海岸線の漁火が煌煌と照らしていたり、野生動物の息づかいや渡る風、雨垂れがキャンピングカーの屋根を叩く音だけが響いていたり……。

このときの感覚を文章で表すのは難しい。使い古された安っぽい表現で恐縮だが、雄大な景色、大自然の前には、自分はおろか人間社会すべてがちっぽけに感じるのは確かだ。

①クルマ移動生活者のコミュニケーション