新制度設計と立法TMI総合法律事務所

②自動運転車(レベル1・2)の事故と運転者の法的責任

2017.01.31

1 はじめに

自動運転の普及は、我々の生活にとってさまざまな利点をもたらす。輸送の効率化による渋滞の解消、環境負担の軽減、高齢者等の移動支援等だ。中でも、最も大きな利点の一つは安全性の向上による事故の減少だろう。2016年の交通安全白書によれば、2015年の死亡事故のうち実に95.5%が運転者の操作ミスや法令違反を第一次的な原因とするものであり、自動運転が実用化・普及すれば、交通事故が大幅に減少することが期待される。

図表1:法令違反別(第1当事者)死亡事故発生件数(2015年) 平成28年版交通安全白書にもとづいてTMI作成

図表1:法令違反別(第1当事者)死亡事故発生件数(2015年) 平成28年版交通安全白書にもとづいてTMI作成

とはいえ、自動運転の安全性も完全とは言い切れない。たとえば、2016年5月、アメリカのフロリダ州で、テスラの自動運転車「モデルS」が、運転支援システム「オートパイロット」の作動中に対向車線から左折してきたトレーラーと衝突し死亡事故を起こす等の事故も生じている。

現行法の下では、事故が発生した場合には運転者が損害賠償責任を負うのが原則である。では、自動運転車が事故を起こした場合には、その責任は誰が負うのか──。運転者以外に「機械」「AI」が運転操作をコントロールすることから、責任関係は大きく複雑化することが想定される。これは、自動運転車のみにとどまらず、広く産業用ロボットや介護ロボット等AIを搭載した機械全般に問題となるテーマである。

 

2 自動運転車のレベル分け(前提知識)

まず、自動運転車の事故の法的責任について考える前提として、自動運転車のレベル分けについて確認しておきたい。運転者の法的責任は、自動運転車のレベルによって変わってくると考えられるからである。

自動運転車のレベル分けにはさまざまなものがあるものの(*1)、国土交通省の「オートパイロットシステムに関する検討会」は自動運転を以下のとおりレベル0からレベル4に分類しており(*2)、本稿でもこの分類に従って検討を行うことにする。

図表2:オートパイロットシステムに関する検討会「オートパイロットシステムの実現に向けて 中間とりまとめ」における自動運転車のレベル分け

図表2:オートパイロットシステムに関する検討会「オートパイロットシステムの実現に向けて 中間とりまとめ」における自動運転車のレベル分け

なお、2017年1月19日現在、日本で市販されている自動車はすべてレベル0〜2のいずれかであり、レベル3やレベル4の自動運転車は市販されていない。テスラは「モデルS」について「自動運転が可能になりました」と発表しているが、テスラ自身が認めるとおり、「モデルS」も上記図表2の定義上はあくまでもレベル2に留まるものである。

 

3 レベル0の場合

はじめに、レベル0の自動車が事故を起こした場合における運転者の法的責任について確認したい。

現行の民法上、運転者が第三者に対して損害賠償責任を負うのは、自らに故意または過失がある場合である(不法行為、民法709条)。不法行為の要件としての過失とは、結果を予見し(予見可能性)、結果を回避することができたにもかかわらず(結果回避可能性)、結果を回避しなかったこと(結果回避義務違反)をいう。すなわち、たとえば「ブレーキを踏まなければ事故が起きるかもしれない」と予見でき、ブレーキを踏めば事故を回避することができたにもかかわらずブレーキを踏まなかったことが過失と評価されるのであり、ここにいう過失は日常生活における「うっかりしていた」といった意味の過失とは異なり、客観的に評価されるものである。

図表3:不法行為における過失とは?

図表3:不法行為における過失とは?

ただし、人身事故に関しては、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)によって、原則として、自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)が、故意・過失の要件を満たさなくとも損害賠償責任を負うこととされている。すなわち、例外的に、①運行供用者および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、②被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、および③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことのすべてを証明した場合に限り免責されることとされているが(同法3条)、この3要件の立証はほぼ不可能であり、免責が認められることはまずないといってよい(実質的な無過失責任)。

このように、自動車事故においては、自賠法の適用により不法行為に関する民法709条が果たす役割は限定的だが、物損事故については自賠法が適用されず民法上の不法行為の過失の有無が問題となるし、人身事故についても上記①の要件において運行供用者および運転者が運行に関し注意を怠らなかったか否かが問題となり、実質的に不法行為上の過失の議論と重なる部分が大きいため、以下では問題を単純化するため、不法行為の要件としての過失に焦点を当てて検討することとする。

 

4 自動運転車ではどうなるか

自動運転車が事故を起こした場合も、従来の自動車事故の場合と同様に、運転者に過失その他の不法行為の要件が認められる限り運転者の責任が発生することになる。

ここで、以下のような事例を想定してみる。

Aは自動運転車に乗って走行していたが、その自動運転車の自動ブレーキ機能が作動せず、前方に停車中の自動車に衝突してしまった。事故当時、運転席に座っていたAは携帯電話を操作しており、前方を注視していなかった。

このような事例で、レベル0の自動車の場合と比べて、自動運転車であるがゆえに運転者の過失が認められにくくなるということはあるだろうか。

 

5 レベル1・2の場合

まずは、レベル1・2の自動運転車について考えてみたい。

現在のところ、自動車メーカー各社は、レベル1・2の自動車の自動運転機能をあくまでも運転を支援する目的のものと位置づけている。また、国土交通省も冒頭で紹介したテスラの「モデルS」の事故を受けて発表したプレスリリースにおいて、現在実用化されている「自動運転」機能は、運転者が責任を持って安全運転を行うことを前提とした「運転支援技術」であり、国土交通省は日本自動車工業会および日本自動車輸入組合に対し、自動車の販売時等に、運転者に対してこのような点を十分に説明するように周知したとされている 。

運転者の側としても、レベル1・2の自動運転車においては自動運転機能を完全に信頼することはできず、自ら主体的に運転操作をする必要があるというのが一般的な認識であろう。

このような現状では、レベル1・2の自動運転車においては、運転者は自動運転プログラムによる運転操作に依存することなく、事故回避のための操作を主体的に行うことが求められているといえ、たとえば上記事例で運転者Aがきちんと前方を注視していれば結果を避けられたような場合には、レベル0の場合と同様に運転者Aの過失は認められると考えられる。すなわち、上記事例を念頭に置いた場合、基本的にはレベル1・2の自動運転車について、自動運転車であったが故にレベル0の自動車と比べて運転者の過失が認められにくくなるということはないであろう。

自動運転プログラムが原則として自律的な操作を行うレベル3やレベル4の自動運転車の事故に関する責任関係がどうなるかについては、より議論が複雑である。レベル3・4については稿を改めて検討することとしたい。

文・弁護士 木宮 瑞雄(きみや みずお)

*1 米国の国家道路交通安全局(NHTSA)は2016年9月まで本文記載のレベル0〜レベル4の分類を採用していたが、2016年10月に、米国のモビリティ専門家を会員とする非営利団体であるSociety of Automotive Engineers, Inc.(SAE)が定めたレベル0〜レベル5までの分類を採用することを決定したほか、日本政府もこれまでのレベル4を2段階に分け、空港等専用空間内や地域を限定した完全自動運転(新レベル4)と、地域限定なしの完全自動運転(レベル5)に分けることを発表している。

*2 NHTSA, “Preliminary Statement of Policy Concerning Automated Vehicles”、国土交通省が設置したオートパイロットシステムに関する検討会「オートパイロットシステムの実現に向けて 中間とりまとめ」

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