本当に必要な高齢ドライバー対策は何か市川 政雄

②海外の高齢ドライバー対策に学ぶこと

2017.03.13

わが国では高齢ドライバー対策の一環として、高齢者講習と認知機能検査が免許制度に組み込まれた。ドライバーは免許更新時に70歳以上だと高齢者講習を、75歳以上になると認知機能検査も受けなくてはらなない。欧米でもドライバーの年齢に応じてそのような免許更新要件を設けている国がある。しかし、わが国と違うのは、その効果を実社会で検証していることである。

たとえば、州ごとに免許更新要件が異なる米国、カナダ、オーストラリアでは、各州の事故率の変化に基づき、要件の違いがもたらす効果を検証している。わが国に置き換えると、免許更新時に高齢者講習を必要とする県と必要としない県があり、講習導入前後の事故率の変化をそれらの県で比較することで、講習の効果を検証している。講習を必要とする県における事故率の変化を、講習を必要としない県のそれと比較するのは、講習以外の要因でも事故率は変化するからである。そこで、講習を必要とする県から必要としない県における事故率の変化を差し引けば、それが講習の効果ということになる。欧米ではこうした観察研究だけでなく、ランダム化比較試験やその結果をまとめた系統的レビューまで行われている。

効果が認められた取り組みのうちわが国で参考になりそうなのは、カナダにおける条件付きの免許更新である。これは高齢ドライバーの健康状態に応じて、たとえば日中の運転や一定の速度以下での運転、高速道路以外での運転のみを認めるもので、そのような制限がある高齢ドライバーのほうが事故率は低かった。一方、わが国でも高齢者講習の一環で行われている実車教習については、欧米でも事故を防ぐ効果は認められていない。逆に、実車教習を免除しても事故は増えなかったという報告はある。

さらに、免許更新要件を厳しくすることで新たな問題が生じうるという気がかりな報告もある。認知機能検査を導入したデンマークでは、検査導入後、高齢ドライバーの事故率に変化はなかったが、高齢歩行者と自転車乗員の死亡率が増加した。そのような増加は他の年齢層ではみられていない。そのことから、高齢者は検査導入を契機に車の運転をやめ、その代わりに屋外で歩行や自転車を利用する機会が増えたため、その際に事故にあう高齢者が増えたと考えられている。欧州では免許更新要件が厳しい国ほど高齢歩行者と自転車乗員の死亡率が高いことから、その可能性は否めない。

このように海外では高齢ドライバー対策の効果検証が実社会で行われている。効果検証は対策に効果がないことを責めるためではなく、効果的な対策を模索するために行うものである。対策を講じて、その効果を検証する ―― わが国にもこうした建設的な姿勢が求められる。

次章では、高齢者をはじめ多様な人が移動しやすい社会を提案したい。

②海外の高齢ドライバー対策に学ぶこと