本当に必要な高齢ドライバー対策は何か市川 政雄

①高齢ドライバー対策を見直す

2016.11.02

わが国の高齢ドライバー対策には、免許返納の推進、免許更新時の高齢者講習・認知機能検査のおもに3つがある。高齢者講習は高齢ドライバーに事故を起こさず運転し続けてもらうことを目的としているのに対して、免許返納と認知機能検査は高齢ドライバーに運転をやめてもらうことで事故を防ごうとするものである。認知機能検査は認知症の疑いのある高齢ドライバーを見つけ出し、認知症の診断が下されたら、そのドライバーの免許を取り消すという点で、自主的な免許返納とは大きく異なる。果たして、これらの対策に効果はあるのだろうか。

わが国の高齢ドライバー対策の根本的な問題は、その効果を実社会で検証しないことである。とにかく対策を講じ、対策に効果があるかどうかわからないまま対策は続く。これでは対策を講じる意味がない。

ここで対策を見直すきっかけをつくるため、交通統計のデータに基づき、高齢者講習の効果に疑問を呈したい。図1に、免許保有者1万人あたりの事故件数(事故率)の推移を、事故を起こした高齢ドライバーの年齢層(65〜69歳、70〜74歳、75〜79歳、80歳以上)ごとに示す。また、ドライバー全体の1億走行キロあたりの全事故件数も示す。

図1 運転者(第1当事者)の年齢層別事故率(免許保有者1万人あたりの事故件数)と運転者全体の事故率(1億台キロあたりの事故件数)の推移 *1

図1 運転者(第1当事者)の年齢層別事故率(免許保有者1万人あたりの事故件数)と運転者全体の事故率(1億台キロあたりの事故件数)の推移 *1

なお、高齢者講習は75歳以上のドライバーを対象に1998年10月にはじまったが、対象ドライバー全員が一斉に受講するのではなく、各自が免許更新時に受講する。免許更新が3年に1度のため、対象ドライバー全員が受講し終えるのは、講習導入から3年が経過した2001年9月頃ということになる。また、2002年6月から講習の対象年齢が70歳に引き下げられたので、70歳以上のドライバーが受講し終えるのは2005年5月頃ということになる。

図1から何が読み取れるだろうか。まず、どの年齢層においても1986年から2001年あたりまで事故率は増加傾向にある。ところがその後、事故率は平行線をたどり、2005年あたりから下がりはじめている。これは70歳以上のドライバー全員が講習を受講し終えた時期と一致しており、講習の効果のように見える。しかし注意したいのは、この事故率の推移は70歳以上のドライバーだけでなく、講習の対象ではない65〜69歳のドライバーにも見られることだ。また、ドライバー全体の走行距離あたりの事故率も同じ傾向をたどっている。これは事故率が講習以外の要因で低下したことを示唆する。

高齢者講習で交通安全に対する意識が高まったという声もあるようだが、事故率の低下に寄与しないのであれば、講習の意義は薄い。高齢ドライバーが支払う受講料の総額を試算したところ、2014年だけで178億円に上る。国は高齢ドライバーにこれだけの投資を義務づけているのだから、それだけの見返り(リターン)があることを確認すべきである。

次章では、海外の高齢ドライバー対策について検討する。

 

1. Ichikawa M, Nakahara S, Inada H. Impact of mandating a driving lesson for older drivers at license renewal in Japan. Accid Anal Prev 2015;75:55-60.

①高齢ドライバー対策を見直す