総務省の視点:自動運転とネットワーク鈴木 茂樹

③行政機関の役割と自動運転関連産業の未来

2017.03.29

どれほど研究しても未来の技術は読めません。どのような形で自動運転を実現していくかについては、10年スパンのような長期計画ではなく、4〜5年程度の中期計画で考えていく必要があります。

この技術を使うべきだ、産業はこういう方向に向かうべきだというのを、行政が推し進めても、数年後にはまったく時代遅れのシステムになっている可能性があります。私たち省庁の仕事は、民間の方々がやりたいことをできるように環境を整備しておくことです。

自動運転関連産業の将来

都市部に住む若い世代が車を買わなくなっていると言われています。もし今後も自動車を所有しない傾向が強まるのであれば、自動車産業は自動車を売るビジネスモデルから、何らかの形で自動車を使ってもらう「自動車サービス」の会社に変化していくでしょう。

スマホでカーシェアリングの予約をしたり、自動走行車が近くまで迎えに来るようなサービスがあれば、今まで自動車を所有してもたまにしか乗らなかった人が、毎日、車に乗るようになるかもしれません。

トヨタも、車載通信機を増やし、車のデータを集めることで生まれるサービスに力を入れていくと発表しています。自動車会社と通信会社とが結びつきを強めているのも、これから走行データなどを使って、新しいビジネスを作っていく表れです。

今まで運転するために使っていた時間を、他のことに回せるというのは、別のビジネスチャンスにもなります。乗車中にスマホでショッピングをし、パソコンで仕事をするかもしれません。テレビを観る人が増え、コンテンツ消費に好影響が出るかもしれません。だとするとテレビ局としては、移動しながらスマホで観られるように、通信回線を使って配信されるコンテンツを増やして、コンテンツ制作にかかったコストをたくさんのチャンネルから回収するモデルに変わっていくかもしれません。

電車のディスプレイ広告が好調だと聞きます。地下通路とか、デパートの入り口の広告も、それぞれの人に特化された広告が表示されるようなことがあり得るでしょう。携帯を持って歩いていると近くの店舗のクーポンが表示されるような、位置情報に根ざした広告手法も増えてきています。車に乗っているときに、そのような文脈に則った広告が表示される可能性もあります。

地方での暮らしが変わる

電波政策2020懇談会報告書(2016年7月・総務省)より

近い将来、田舎のおばあちゃんがこれから病院に定期検診へ行くとき、公共の交通手段がないので、前の日にスマホで予約をすると、時間通りに無人のタクシーが迎えに来てくれるようなサービスができるかもしれません。この無人のタクシーに乗ったとたん、椅子のセンサで血圧や体温を計ってくれて、病院の先生にいち早くデータが送られるので、検査の時間を省略して、問診をすぐに受けることができます。

このような形で、ビジネスや生活が変化することが考えられます。日本は旧ソ連のような計画経済ではないので、官庁が数年後を全て予測してビジネスプランを立てるわけではありません。私たちの役割は、これまでと同様、通信規格及び法制度づくりを進めることにより、民間の事業者さん達が新しい活動をし易くするための環境整備だと考えています。

総務審議官・鈴木茂樹
総務省新世代移動通信システム推進室長・中村裕治

③行政機関の役割と自動運転関連産業の未来