ソフトバンクの傘下で、自動運転技術を活用したスマートモビリティーサービスの事業化に取り組むSBドライブは、代表取締役社長/CEOの佐治友基氏が、通信会社が自動運転業界に参入する重要性についてソフトバンク社長に直訴して会社設立に至ったという経緯を持つ。
レベル4での自動運転車普及を標榜し、北九州市や鳥取県八頭町、長野県白馬村、浜松市と連携協定を締結して自動運転バス導入の実証実験を進めているSBドライブを代表し、佐治友基氏が、自動運転車が普及する際のインフラのあるべき姿や見えてきた過疎地域での自動運転車のあり方を説く。
レベル4以上の自動運転車は必需品になる
自動運転車はレベル4以上(高度運転自動化)で普及させなければ意味がないと考えています。レベル2や3はせいぜい現在の自動車の付加価値に留まるもので、高級車のオプションとしてしか普及しないでしょう。輸送力の総量にインパクトが出るのはレベル4からです。
日本は交通面における課題先進国です。超高齢化社会がいち早く現実のものとなった日本では、運転免許を返納する人が増えてきました。今後もこの流れが続く社会では、自動車の運転ができない人が多数になることを踏まえた交通インフラの整備をしなければなりません。つまり今までの路線を保持するだけでは足らず、現在人が自家用車で移動している範囲までカバーする必要があるということです。
交通インフラのうち最も輸送力が高いのが電車です。次いで、バス、タクシー。
電車を走らせることができる地域以外は、路線バスをいかに走らせるかが今後の課題となっていきます。ライドシェアやカーシェアによって移動している人はまだせいぜい数パーセントなので、まだ議論の段階にありません。
しかし、現状すでにバス会社の7割が赤字経営に陥っているといわれ、過疎地域からの撤退が増えています。住民の足を確保するために各種補助金が出ているものの、約6割を占めるといわれる人件費が経営を圧迫していることと、広大な地域を走らせてもわずかな乗客しか利用しないという現実がバス会社を苦しめています。また、ドライバー不足も深刻です。
(編集部注:バス業界の努力により、バスドライバーの労働時間は一時やや減少したが、全産業と比較するとまだまだ長い傾向にある。この長時間労働がバスドライバー不足に影響を与えている可能性は否定できない)
過疎地域におけるバス会社の撤退は、住民が移動手段を失うだけでなく、地域の経済にも影を落としています。村内を定期運行する路線バスがなく、さらにタクシーも少ない長野県白馬村では、貴重な収入源である外国人スキー観光客が移動するのに不自由するという問題を抱えています。
これらの問題は、レベル4の自動運転バスを導入すれば大幅に改善することが可能です。レベル2や3では結局ドライバーが必要になるか、万一の際に乗客に負担がかかるシステムになるため意味がありません。レベル4のバスこそ必需品となっていきます。
私は自動運転バスによってバスの利用者を増やした段階で、再びバス会社を誘致し、きちんと利益が出る経営をしてほしいと考えています。そうすればもっと住みやすい地域になっていくのではないでしょうか。
自動運転車を「バス」から普及させる理由
現在、SBドライブは北九州市など4市町村と連携協定を結び、自動運転バスの導入の実証実験を計画しています。実は路線バスを自動運転車導入の第一歩としたのは、自動運転バスが必需品になる地域があるという理由のほかに、ルートや走行時間が決まっているため、技術的なハードルが低いという背景があります。複雑なルートを組み込むよりも同じ道を走らせる方が自動運転バスに記憶させる情報量ははるかに少なくてすむのです。
しかし今後は、長く待たず、複雑なルートも動けるようなタクシーに近いバスを運行したいと考えています。ニーズに合わせ、小型化も検討中です。場合によっては、タクシーとの境目がほとんどなくなるかもしれません。
新しい利用スタイルになるかもしれない“タクシー呼び出しボタン”
SBドライブが2016年11月に、経済産業省の「平成28年度スマートモビリティシステム研究開発・実証事業」の、「専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」を受託した産業技術総合研究所(産総研)から、その事業の一部を受託したことを発表しました。そして、この事業の一環として共同制作したコンセプトムービー「バスがまた、通るようになったから」を、SBドライブ公式YouTubeチャンネルで公開しています。過疎化などで廃止された路線バスが自動運転で復活するイメージを、自治体やバス事業者、地域の住民に向けてご説明するために制作しました。この動画の初めに、女性がバス停に設置されたボタンを押すシーンがあります。そのボタンは、バスを待つ人がいることをインターネット経由で車両へ知らせる、IoTデバイスをイメージしたものです。
タクシーを呼べるスマートフォンのアプリが既に存在しますが、自動運転バスやタクシーもスマートフォンのアプリで呼ぶことができるようになると考えられます。ただし、スマートフォンを操作するのが苦手な方もいらっしゃるでしょうから、そのような方には“タクシー呼び出しボタン”を提供できればと考えています。先ほどご紹介した動画に登場するボタンが進化したものです。これはまだ思いつきのレベルですので、実現できるかどうかは分かりませんが、ボタン一つで呼べる仕組みは新しい利用スタイルになるかもしれません。
自動運転車で変わる業界地図
自動運転が語られるとき、道路上の安全については頻繁に議論されますが、もう一つ考慮すべき安全があります。車内の安全です。自動運転車は走る密室になるわけですから、万一乗客が突然倒れてしまったり、犯罪に巻き込まれたり、降り方がわからないといったときに、すぐに対応できるようにするため遠隔で見守るシステムが必要になります。
自動車産業は、今までは例えば100万円かけて造ったものを200万円で売ることがビジネスでしたが、これからは「使ってもらう」ことにもビジネスが拡大していくと考えています。つまり自動車会社はライドシェアの運用まですることになる。整備や利用中の安全の確保、見守りなどにも力を入れていくことになるのではないでしょうか。
また、自動運転車が普及すれば、当然、車内での過ごし方が変わります。エクササイズをするかもしれないし、ゲームや病院、飲食店が自動運転バスの中に入るかもしれません。広告がどう変化するかも気になるところです。
自動運転車は今後、さまざまな事業者が参入するプラットフォームになっていくと思います。見守りシステムについては、われわれや自動車会社よりも警備会社の方が優れているかもしれない。自動運転車はさまざまなプレーヤーが集まって進化していくことになるでしょう。
国をあげての自動運転車の普及は大変なことではありますが、10年後、20年後には確実に公共交通の必需品になります。冒頭でお話しした通り、日本は課題先進国ですからここでしっかり投資をしてモデルをつくれば、運行管理システムを海外に輸出して投資を回収することも可能になると考えています。