自動運転のための通信装置を、道路インフラに設置するためには、コストと便益とを天秤にかけながら投資していく必要があります。
高度道路交通システムを、道路側の装置で運用しようとすると、ある程度、需要が集中しているところに置かなくては、コストを回収できません。大都市にある交通量の多い道路では、信号機に装置を付けて車と情報のやりとりをすれば、渋滞緩和や事故防止につながり、大きなメリットを得られますが、対向車もめったに来ない山の中の一本道では、携帯電話の基地局とつながるだけで十分かもしれません。
自動走行のことを考えても、交通量が少なければ、地図データとGPS信号、画像認識やレーダーのみによって、道路や信号、障害物を認識しながら走行できるかもしれません。死角から車や歩行者が飛び出してくるという状況が多くなるのは、ビルが多く交通量も多い市街地だけです。
全国一律で同じ装置を全ての道路に配置するのが最適ではないはずです。どこの道路にどのような装置を配置するのかというのは警察庁や国土交通省の管轄ですが、おそらく交通量や事故発生状況などを見ながら、かける費用と受けられる便益を検討していることでしょう。
過疎化・高齢化対策としての自動運転
自動運転は、公共交通機関が整備されている東京よりも、地方で活用される可能性が高い技術です。過疎が進み、財政難で公共バスが運行できなくなっている地域において、自動車を運転できない高齢者は移動に困難を感じています。そういった場所に、例えば一人乗り用のモビリティが自動走行で家まで迎えに来てくれて、病院や市役所、買い物に行ける。降りたら充電スポットに停まっている。
これはただ便利というだけでなくて、高齢者の社会参画という人の幸せに直結することです。今後、人口の3分の1が高齢者という時代に、日本が活力を維持するためには、ICTによる効率化と、歳をとっても健康に社会参加し続けられる環境の整備が欠かせません。どのような自動運転サービスを具体的に実現しようかということは、まだ国家政策的には決まっていませんが、個人的には田舎でどんどん進めて、高齢化対応の一つとしてやれば良いと思っています。
総務審議官・鈴木茂樹
総務省新世代移動通信システム推進室長・中村裕治