イギリスの本音谷本 真由美

③自動運転車が欧州で直面する問題

2017.06.22

自動運転車が語られる際には、ついつい車やソフトウェアのことに議論が集中しがちです。特に北米や日本の議論がそうなりがちなのは、自動運転車を走らせるインフラが整っているからだと言えます。

欧州の場合、自動車メーカーがあるにも関わらず、自動運転車が走るためのインフラは極めて不利です。

このインフラの脆弱性は、実際に住んでみないとなかなかわかりません。

第一の問題は、街の作りです。特に都市部や古い街は、大昔の城塞都市の道路や建物がそのままだったりします。私が住んでいたローマの場合は、遺跡の上に街が建っているようなものです。街自体が歴史的文化財だったり、石作りですから、建物や道路を破壊して、新しく自動運転に有利な道路を作るわけにはいきません。

街の景観、日照権、建物の色や使用される素材にまで細かい規制があるのも珍しくないので、それをクリアして自動運転に有利な道路を作るのも大変なのです。

その上古い街だと道は狭く、橋や道路が石畳だったりします。ですからイタリアやスペイン、フランスの古い田舎町は日本のオート三輪の様な超小型車やバイクが大活躍していたりするのですが、こういう環境だと最新型の自動運転車が走るのは厳しいのではないかと思います。

地方の何もないところであれば何とかなりますが、そういう所は過疎地なので、自動運転の需要がありません。

二点目は通信インフラの件です。欧州の通信インフラは北米や日本に比べると品質に問題があります。これは政府によるインフラへの投資が十分ではないというのもありますし、建物や街の通りが古いので、回線をはったりマストを立てるのが大変という事情もあります。私はローマでネットワーク関連のプロジェクトにも関わっていましたが、なにぶん街が古いので、ちょっと回線を延長しようと地面を掘ると、遺跡がでてしまって作業が何年もストップすることも珍しくありません。

欧州は陸つなぎですので、車は容易に国境を超えます。しかし国境を越えれば通信事業者は代わり、通信費も変わります。

EUは携帯電話に関してはローミング費用を廃止し、EU加盟国全体が一つの国になるような仕組みにしました。しかし自動運転に関しては、例えばギリシャの車がブルガリアとマケドニアを走り、ドイツやフランスを超えてイギリスまで行った場合に、事業者とどのようにデータを交換するか、どのようにシームレスに走るのか、といったことは決まっていません。EUが何か枠組みを決めるにしても、交渉は各国の通信事業者だけではなく自動車メーカー、その他の事業者も含めての個々の交渉になりますから、膨大な手間がかかります。

セキュリティや個人情報保護に関しても各国の法律は異なるので、EU指令ですべてを統括できるわけでもありません。さらに、イギリスはEU離脱を正式に通告しましたし、他の国もこの先どうなるのかわかりません。このようなプレーヤーの多さやEUの存在はアメリカや日本では問題にならないことです。

こういうインフラ周りの問題は、欧州だけではなく新興国や旧共産圏で自動運転車を普及させるのにも問題になります。欧州の事例を検証することには、色々と示唆があるような気がします。

③自動運転車が欧州で直面する問題