現在つくば市内では、パーソナルモビリティのシェアリング実証実験を行っている。今回は、パーソナルモビリティシェアの課題と展望について、つくばを例にとりながら詳しく述べていこう。
パーソナルモビリティ普及までの発展形態
パーソナルモビリティにはロボット・AI技術が搭載されるがゆえに、電動車いすなどと比較すると高価にならざるを得ない。例えば、Segwayを現在日本で購入すると諸経費込みで約100万円かかる。我々の所で開発している自律走行車いすも、約50万円の外界センサを2台取り付けており、製作するだけで1台約150万円かかる。今後ますますセンサが低コストになり、それをパーソナルモビリティにおいても活用可能になれば多少安価になることは期待できるが、それにも限界があることは否めない。
こうした高価なパーソナルモビリティを普及させるには、個人が保有する形態以外の利用方法も考えることが必要である。例えばSegwayを例に取ると、Segway の活用は世界的に見ても個人移動手段としてではなく、警備と観光用途にほぼ限定されていると言っていい。つまり法人が購入し、従業員やお客さんが利用する。そのため、日本においては法人向けにしか販売していない。日本では公道走行が許可されていないため、必然的にそうなるのは分かるが、多くの州や国で公道走行が認められている米国や欧州においても、個人所有している例は少ないようである。純粋に移動手段としての利便性、安全性、コストなどを考えると、他の移動手段との比較において優位性を訴求できていないのであろう。
つまり、パーソナルモビリティの普及を考える際には、一足飛びに個人所有を目指すのではなく、少し時間をかけて段階的な普及を考えるべきである。特に、パーソナルユースレベルの普及のためには、後の章にて詳細を論じる法規制やインフラ整備、安全性向上など、多方面においてその解決に時間がかかることが予想される。その間、パーソナルモビリティ関連技術の深化が継続的に行われ、関連法制度の改正などが順次進むためにも、パーソナルユースまでつなぐための活用アプリケーションを考えなければならない。現在のように法人が所有し、対象者を限定して活用している警備・観光用途と、個人所有のパーソナルユースをつなぐ形態は一体何だろうか。
シェアリングユースが普及のカギ
その1つの形態が、第1章で将来像として述べたモビリティシェアである。つまり所有は法人でユーザは一般の個人であり、個人の裁量で好きな時に行きたい場所まで使えるという、パーソナルモビリティシェアリングではないかと考えている。自転車シェアリングについては国内外で既に普及しているが、そのパーソナルモビリティ版である。運用方法や課金方法をうまく設計すると、一台あたりのモビリティのコストが高くても、稼働率を上げることで採算が取れる可能性がある。
では、自転車シェアリングとパーソナルモビリティシェアリングの大きな違いは何だろうか。自転車シェアリングは、まず自転車自体が安価であるため運用台数が多い。さらに、雨に強いため各ステーションが簡便なもので良く、充電の必要もない。一方で、パーソナルモビリティは1台当たりのコストから数多く準備することができない。小台数で運用するためには、ステーションに行って使えなかったということを極力避けるため、予約システムの導入が必要となる。それもコスト的な問題から無人で運用可能としたい。また電動のため、充電設備が装備され、風雨をしのげるステーションが必要となる。充電ステーションに関してはアクセスのしやすさと盗難への配慮を両立させなければならない。
これらの問題を解決するための実証的研究として、つくば市内においてパーソナルモビリティシェアリングシステムを構築し、2013年から継続的に公道走行実証実験を行っている。
つくば市内の4か所(つくばエクスプレスつくば駅、研究学園駅、産総研、つくば市役所)に充電ステーションを設置し、計4台のSegwayのシェアリング運用だ。
ユーザ登録をすると指定のWebサイトから使用したい日時、使用区間が予約でき、その際にPINコードとQRコードが発行される。ユーザは予約開始時刻に貸出ステーションに行き、コードの情報により認証後、貸出可能なSegwayの収納扉のロックが自動的に解除されることにより、取り出して使用することができる。利用して返却ステーションに近づくと返却すべき収納扉のロックが自動的に解除され、そこに返却するという設計だ。こうして、極力無人で運用可能な体制を整えた。現在は産総研職員とつくば市役所職員の計約60名の登録者にてシェアリングを利用している。
シェアリング普及に向けた課題
約3年間の実運用を経て、パーソナルモビリティシェアリングシステムに関して、いくつかの課題が明らかになっている。
まずは自家用車等、他モビリティとの接続の問題である。私は現在、出張用途に限定してSegwayを活用しているのだが、利用頻度が高いルートは産総研からつくば駅区間である。つまり、朝は産総研に出勤して、午後の東京での会議に出張する際に利用するケースである。距離的には約3kmあるため歩くには遠く、Segwayを利用すると約20分で到着するため、時間的にもちょうど良い。しかし、利用者が車通勤者の場合、車をピックアップするために会議後再び産総研に帰ってくる必要があり、夕方以降になると暗くてSegwayが使えず、路線バスを使わざるを得ない。こうした利便性の面での問題がある。
また、Segwayの配置に関する問題も生じている。例えば、Segway A を利用して、15時につくば駅から産総研まで移動するという予約をオンライン上で成立させたとしよう。しかしこの予約の通りにSegway Aを利用するためには、前の時間帯のユーザも予約の通りに、Segway Aを使ってつくば駅まで移動してくれないといけない。このことからわかるように、あるユーザのキャンセルにより、ほかのユーザが使用不可となるという問題が生じてしまう。
さらに、現在は法律上の制約により保安要員が別途必要であるため、最低2台での運用にならざるを得ず、2名の都合を合わせる必要がある。そのため柔軟な運用ができていないのが現状である。加えて、これはシェアリングに限った問題ではなく、パーソナルモビリティが本質的に抱える問題であるが、天気や気温に大きく影響を受けるため、冬場の利用者が極端に少なくなる。風を切って走るため体感温度が下がることから、手袋をするなど万全な防寒準備をしなければならず、快適な移動という訳にはいかない。
このように、モビリティのシェアに関しては、シェアリングシステムが抱える問題、法規制の問題、パーソナルモビリティ自体の問題など複雑にからんでいる。シェアリング以外の課題については、以降の章にて解決法も含めて順次論じていきたい。
現在は小規模運用なのでさほど問題にはなっていないが、将来的な大規模運用を想定すると、パリのヴェリブなど大規模展開している自転車シェアリングが抱える課題も、同様に当てはまる。つまり、充電ステーション間で貸出・返却頻度の差や利用区間の偏りがあると、ステーションにモビリティが溜まったり、あるいは不足したりという不均衡が生じる。そのため、トラックなどを利用して人手でモビリティを移動しなければならなくなる。
対策としては、現在の自転車シェアリングでも行われているように、課金方法に柔軟に差を付けることで、うまくユーザの利用区間や方向を誘導する方法である。その他には、街における一日の人の流れを詳細に解析し、人流シミュレータなどを活用しながら、システム設計の時点でステーション配置や台数の最適化を図る方法も考えられ、我々の所でも一部取り組みを行っている。しかし、第1章で触れたように将来的には自動運転技術による無人配車により、技術の力で解決されることを期待したい。
このように、シェアリングユースを例に取ってみてもいろいろな課題を解決しなければならないことが分かる。第3章では、パーソナルモビリティの社会実装のための課題について、技術面、安全面、制度面、費用面、インフラ整備など、多様な角度から個別に論じたい。