「自動運転時代」と日本の戦略古谷 知之

⑤ドローンを活用した地方創生

2017.04.12

筆者の研究テーマの一つに、「ドローン前提社会の実現」がある。慶應義塾大学に「ドローン社会共創コンソーシアム」を設立し、その代表として教育・研究・社会応用に関する研究に取り組んでいる。その活動の詳細については、是非コンソーシアムのHPを御覧いただきたい。とりわけ力を入れている取り組みの一つが、「ドローンを活用した地方創生」である。前回の連載で地方創生について言及したが、我々も手をこまねいている訳にはいかない。「実践する研究者」として何に取り組めるのかを考えたときに、このテーマに行き着いた。理念としてだけではなく、自治体との協働で、どのような雇用創出や企業誘致が可能かということに取り組もうとしている。具体的な成果が出ているわけではないが、筆者らの取り組みの概要や期待している点について、述べておきたい。

ドローン前提社会へのロードマップ

この連載ではこれまでにも「自動運転前提社会」について述べてきたが、ドローンについても同様に、「ドローン前提社会」がやってくると考えている。ドローンと自動運転を車の両輪のように活用しながら、上空・地上・水中を無人の自律制御された航空機・車両・船舶/潜水機で使いこなすというだけではない。社会課題解決の手段として、ドローンや自動運転、ロボットが選択される社会である。

「ドローン前提社会」を実現するためのアプローチは、大きく3つに分けられる。ハード面での①技術開発、ソフト面での開発された技術を社会の課題解決に適用する②社会応用と③人材育成である。先日閣議決定された政府のH29年度予算のうち、小型無人機に関する関係予算(約120億円)では、技術開発とその環境整備については、件数・予算額ともにかなり手厚く手当されている。しかし、社会応用(政府による小型無人機のロードマップでは「利活用」などとなっている)や人材育成に関する予算は、殆ど見当たらない。

自動車産業が、市民が自家用車を活用するようになってはじめて一大産業となったように、ドローンが産業として成長するにはユーザ(単に操縦者という意味ではない)を増やすことが必要である。ドローンは自動車や有人航空機のように裾野の広い産業ではない反面、飛行空域が比較的狭い範囲に限定されることから、特定地域の産業振興に活用できると期待される。まさに地方創生である。

ドローン人材育成のために―必要なのはドローン「だけ」使える人材ではない

ドローンを活用した地方の産業振興について、以下に示すような地域の「生態系」を構築するのが良いのではないかと考えている。ドローンを活用して産業振興したいという地域(自治体)があれば、自治体と地元企業、及び学校との連携により、地方版のドローン・コンソーシアムを形成すると良い。コンソーシアムでは、産業振興に主体的に取り組むグループと、人材育成に主体的に取り組むグループとにわけ、育成されたドローン人材の受け皿として地域のドローン関連産業が存在するような出口戦略を明確にする。

取り組むべき産業振興グループは、地域によって異なる。農業・観光・物流・環境などがあるだろう。後述するように、消防・警察・防災など国土安全保障分野もその役割に加えておくと良い。産業振興は主に以下のような事業者によって支えられる。すなわち、①技術開発を担う事業者、②社会実装を担う事業者、③実験場や施設等を提供する事業者、そして④経済的に支援する事業者、である。このうち①技術開発を担う事業者や②社会実装を担う事業者は、国内外のドローン関連事業者に加え、地域の測量会社や組み込み機械企業、地元ベンチャー企業などが加わることで、地域への技術移転や雇用確保が期待できる。③の事業者として、廃校・廃屋などを管理する団体があってもよい。それにより、地域の空地・空室を有効活用できるからだ。④のスポンサー的な事業者には、地銀や地元テレビ局・新聞社などが有効な候補だろう。

人材育成については、小中高校、専門学校・短大・大学、ドローンスクールなどが有機的に連携し、ドローン人材の出口(就職先)をしっかりと確保することが肝要である。ドローン人材育成について重要なのが、ドローン「だけ」を使いこなせる人材を育成しないことである。そのような人材はドローン関連産業では殆ど求められない。むしろ、「土木測量もできるうえでドローン測量も可能な人材」とか、「農業をやっていてドローンの操縦もできる」などと言ったように、本業を他に持ちながら付加価値としてドローン技術を有する人材が求められる。その意味では、測量会社や環境計測会社などがドローンスクールと連携して、即戦力となるドローン人材の育成に取り組むのが望ましい。

図 ドローンを活用した地域産業振興の考え方

図 ドローンを活用した地域産業振興の考え方

筆者の所属学部が連携協定を結んだ福島県田村市で取り組んでいるドローンを活用した地域活性化は、まさにこのようなスキームの下で取り組んでいるところである。とりわけ人材育成については、昨年12月から取り組みはじめたばかりであるものの、福島県立船引高校の31名の高校生がドローン講座に取り組み、ドローンを活用した空撮やレース、地域課題解決のワークショップに取り組んだ。先日(3月17日)に成果発表会を行ったばかりであるが、実家が農家という生徒が農業を営む祖父を手助けするドローン活用方策を提案するなど、非常に興味深かった。

国土安全保障にドローン人材を活用する方法

ドローンを活用した地方創生に欠かせないと考える分野が、消防・警察・防災・テロ対策などを含む国土安全保障である。産業振興や人材育成を通じて排出されるドローン人材は、平常時には自身の業務のためにドローンを活用するが、非常時にもドローンを活用できるのが強みである。消防や警察などの分野でのドローンの積極活用を進めるのと並行して、こうした人材が不足する地域では、民間人ドローン人材を国土安全保障分野に積極登用すべきだ。例えば、普段は観光振興のために空撮映像を撮影している人は、災害発生時には災害場所の情報収集を行うこともできる。まさに情報技術分野における「屯田兵」であり「予備役」とも言える存在である。

既に幾つかの自治体が、消防・警察分野でドローンの導入をはじめている。消防では火災発災場所の特定や火災現場での消火剤投下、警察では事件・事故現場の空撮やテロ対策現場の警備などで活躍されることが期待されている。筆者らのコンソーシアムでも消防署向けのドローン講座を開催したことがあるが、実習中に火災が発生し、消防署員が火災現場へと飛び出す中、ドローンを消防署上空に上昇させ、火災発生現場を特定することができた。火の見櫓としてドローンが役に立った事例である。

昨年末の新潟県糸魚川市大規模火災の際には、保険会社がドローンを活用して被害状況を把握する損害調査を実施した。栃木県那須町のスキー場で実習中の高校生が雪崩に巻き込まれた事故でも、消防と自治体の現場検証にドローンが用いられた。

我が国の地域づくりは、何よりも「安全」という土台の上に成り立っていることを忘れてはならない。政治家や自治体の首長の中には、「安全」と「安心」を混同したり、科学者が「安全」であることを示しても理解を示さないような方もいる。なかには「科学的に安全であっても安心ではない」などと、やたらと「安心」を煽る首長もいるようだが、言語道断である。最先端の科学技術を活用して地域やインフラの安全性を確保して初めて、地域産業を振興できるのである。ドローンを活用した地方創生を推進する際には、国土安全保障の観点を取り入れ、地域の安全を担保するような仕組みづくりにも併せて取り組んでいただきたい。

その意味では、ドローンや自動運転、ロボティクスなど、新しい技術を前提とした「安全保障」のあり方について、考え直す時期に来ている。この連載でもこのテーマについて論じてみるつもりだ。

⑤ドローンを活用した地方創生