昨年夏にウーバーに買収されたオットーの共同創業者で、現在はウーバーで自動運転車開発の責任者を務めるアンソニー・レヴァンドウスキィが古巣のグーグル(子会社の現ウェイモ)から米国時間23日に訴えられた。提訴の理由は、機密情報の不正持ち出しというもので、持ち出された書類の数は約1万4000件、情報のデータ量は9.7GBにものぼるとされている。
告訴について説明したウェイモのブログ記事によると、このデータのなかにはウェイモが自前で開発したLiDARセンサーをはじめとするさまざまなハードウェアの設計図などが含まれているという。また、レヴァンドウスキィが退社を申し出る約6週間前に、会社支給のノートPCを使ってウェイモのサーバーにアクセスしていたことや、ノートPCにダウンロードした書類を外付けのドライブ(記憶媒体)にコピーしたこと、その後ノートPCのドライブを初期化していたことなど、犯行の手口もかなり詳しく記されている。さらに、レヴァンドウスキィ以外にも不正に情報を持ち出していた元ウェイモ社員(Uberに移籍)が複数いることなども記されている。
この件を報じたWSJ記事には、レヴァンドウスキィが昨年1月14日にウーバー本社で同社の上級幹部と面会していた、その翌日にオットーを法人登記していた(登記時の社名は280 Systems)、法人登記の12日後にグーグルを退社したなどと記されている。また、ウーバーがオットーを買収したタイミングに関して、レヴァンドウスキィがグーグルから最後の報酬(数百万ドル単位の報酬)を受け取ってまもなくのことだったとする記述もある。ウェイモ側の主張が正しいとすれば、レヴァンドウスキィらによるオットー設立〜ウーバーへの売却は事前の計画に沿ったもの、ということになろう。
Bloombergでは、レヴァンドウスキィらの不正情報持ち出しによってウェイモが被った損害について「5億ドル以上」とする同社側の主張が紹介されている(訴状の記載を引用)。ウーバーによるオットーの買収額が推定6億8000万万ドルとされているので、その価値の大半が持ち出された書類ーーグーグルが約7年かけて開発してきた自動運転車関連の技術に関する情報だったとの可能性も考えられる。
オットーは昨年5月に、同社の技術を搭載した大型トラックをネバダ州の公道で走らせ、その模様を撮した映像を発表したことで大きな注目を集めていた。だが、実はこの実験走行が同州当局の反対を押し切って行われたものであったことが後にBackchannelで報じられていた。同記事によると、実験走行に必要なライセンスの取得にあたって、さまざまな書類手続きのほか、すでに1万マイルの走行実績があることを証明したり、500万ドルの預託金を納めることなどが求められるため、デモ走行を急ぐオットーではこの手続きを踏まずにデモ走行の撮影を実施したとされている。
また12月には、ウーバーがサンフランシスコ市街で自動運転車を使ったサービス実験を開始した際、カリフォルニア州当局の承認を受けずに見切り発車したことが問題化。同社はこの件で結局実験中止に追い込まれていた。
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今回のグーグルによる提訴は、ウーバーが社内でのセクハラ問題に大揺れに揺れている最中に起こった出来事。このセクハラ問題(元女性従業員の暴露によって明らかになった男性上司によるセクハラ)では、人事部門が男性側を擁護する対応をしていたことなどが問題視され、同社の体質を疑問視する声が改めて上がっていた。また同社の社外取締役であるアリアナ・ハフィントン(ハフィントンポスト共同創業者)の主導で、元司法長官のエリック・ホルダーがこの問題の調査に乗り出したことも報じられていた。さらに23日には、ユーバーの初期の出資者であるミッチ・ケイポア(Lotus 1-2-3開発者)からも同社に対して企業体質の改革を求める公開書簡が出されていた。
ドナルド・トランプ米大統領の移民入国制限令発布を引き金に、ウーバーに対してボイコットの動きが広がっていたことは以前に触れたとおり。こちらの問題については、ウーバーCEOのトラヴィス・カラニックがトランプのアドバイザー役を辞退すると発表したことでひとまず沈静化したようにみえるものの、今回のセクハラ問題発覚直後からふたたびボイコットを呼びかけるメッセージが広がるなど、ユーザー側での不信感は払拭されていないとの印象も強い。
また少し前には、ピッツバーグ市長のビル・ペデュートがウーバーに対して失望感を示したとする話も流れていた。同氏はウーバーによる自動運転車関連の開発拠点開設にあたって大いに便宜を図ったとされる人物だが、QUARTZ記事によると拠点開設後のウーバーは同市の協力依頼に対して消極的な姿勢を続けているため、現在では双方の関係が冷え込んでいる状態だという。またこの件について「たとえウーバーがピッツバーグからいなくなったとしても問題ない。ここに拠点を構えたいという自動運転関連の企業はほかにたくさんある」とする同市長のコメントをのせたCityLab(The Atlantic)記事も見つかる。
自動運転車の開発競争で無視できない存在となったウーバー。そのウーバーがライドシェアリングサービスの展開をめぐってこれまで各地の行政などと文字通り喧嘩しながら事業を拡大してきたことはよく知られているが、これだけさまざまな問題が一挙に噴出したこともこれまではなかったはずで、「Wii tennis」の世界ランキングで2位に入るほど極度の負けず嫌いとして知られるカラニックがこの難局をどう乗り切るかに注目が集まる。
【参照情報】
・A note on our lawsuit against Otto and Uber
・Alphabet’s Waymo Sues Uber Over Self-Driving Car Secrets
・Alphabet’s Waymo Sues Uber for Stealing Self-Driving Patents
・The Man Who Built Google’s First Self-Driving Car Is Now a Trucker
・How Otto Defied Nevada and Scored a $680 Million Payout from Uber
・Pittsburgh Mayor Says He Is In A “Cooling Off” Period With Uber
・Pittsburgh has finally realized it’s in a toxic relationship with Uber
・Pittsburgh Mayor: ‘We Follow the Constitution, Not Executive Orders’