技術および欧米自動車産業人事情報坂和 敏

⑫海外ニュースから読み解くウェイモのライドシェア実験

2017.05.02

capture image: Meet Waymo’s Early Riders(Waymo)

アルファベット傘下のウェイモ(旧グーグルの自動運転車開発プロジェクト)が、自動運転車を使ったライドシェアリング・サービスの実験をアリゾナ州フェニックス周辺で行うことになったと、米国時間25日に発表した。日経新聞をはじめとする各媒体の報道でこのニュースを目にされた方も少なくないかと思う。

ウェイモのジョン・クラフチェックCEOは、Mediumに公開したブログのなかで、このプログラムのねらいについて「(参加者の)一般市民にこのサービスを毎日使ってもらうこと」などと説明している。ウェイモでは、自動運転技術の開発に必要な各種のデータ収集から、ユーザーの利用動向に関するデータ収集に実験の目的がシフトしたとも考えられる。また今回の発表に先立ち、同社はフェニックスで密かにサービス実験も行っていたとのことで、このクローズドな実験が同サービスのアルファ版、これから行う人数限定の実験がベータ版といった位置づけとも推測できる。ウェイモ自体はまだ具体的なビジネスモデルを明らかにしていないが、以前から噂されている「特定地域でのライドシェアリング・サービス」という事業化の選択肢を想定した取り組みとの可能性も思い浮かぶ。そのあたりも含めて、以下に気がついた点をまとめてみる。


(今回プログラム参加者募集の告知に合わせて公開された選考利用者の動画)

車両500台以上を投入

今回の発表でまず目を惹いたのが、投入予定の車輌が500台というその数の多さ。これまでも、実際にユーザーを乗せての実験というのは、昨年来世界各地で行われている。またウェイモと直接競合しそうなウーバー(LiDAR技術などをめぐって係争中)でも昨年9月からピッツバーグでユーザーを乗せての走行実験を進めてきているが、その数は数十台程度のはずだから、ウェイモのそれは一桁規模が違うといえよう。

なお、昨年12月に公開されたウーバーのVolvo製自動運転SUV(XC90)の累計台数が現在どの程度になっているかはわからない。また今年開始を予定しているリフトとGMのサービスについても、どの程度の規模を想定しているのかはまだわからない。

ユーザーの利用動向に関するデータという点では、いまのところウーバーやリフトといった既存のライドサービス事業者のほうが圧倒的に有利(人間が運転する車輌を使ったサービスの場合)だが、どんな人がどんな目的でライドシェアを利用するかといった具体的な点については、既存の事業者でもデータが採れていない可能性があり、その前提でいけば世帯ごとの応募で、日頃の移動ニーズなどを聞き取りした上で参加者を選ぶというウェイモの取り組みは、かなり粒子の細かいデータが集められる分だけ有利に立てるとも考えられる。

同プログラムに使われる車輌については、フィアット・クライスラー製ミニバン(Chrysler Pacifica)500台の他に、既存のレクサス製SUV(RX450h)も投入される。これらの車両にはユーザーの振る舞いを記録する車内カメラなども装備されそうだが、いまのところ具体的なことはわからない。

どうしてアリゾナか

ウェイモは昨年からフェニックス周辺で自動運転車の公道走行実験を行っている。これはシリコンバレーの本社周辺、フェニックスでの実験は、オースチン(テキサス州)、ワシントン州に続いて4番目。おそらくこの実験走行を通じて一帯の道路や地形などに関するデータが十分に集まり、一般利用者を乗せても大丈夫なレベルに達したということかもしれない。ちなみに、ウェイモのブログには「走行中に人間のドライバーが介入する回数」について、2015年の0.8回(1000マイルあたり)から2016年には0.2回(同)まで減ったというグラフもある。

ウェイモが2009年以来公道での走行実験を重ねてきてたことは既報の通りだが、今回の発表にふれたThe Verge記事には「念のためにドライバーを同乗させるけれど、極力自動で走行させる考え」とする同プログラム関係者の話も出ている。

ほかの地域ではなく、なんでアリゾナになったかという点についてすぐに思いつくのは、1)天候や地形、2)行政側の積極姿勢という2つ。1については、簡単にいうと「お天気の良さ」で、年間の降水日数が約30日などと聞くと、雨や曇りの日が多いことで知られるワシントン州などよりはるかに好条件ーーいわゆる「エッジケース」が少ない場所であるためと推測できる。2)の行政側の姿勢については、自動運転車の実験に関わる規制が緩い点が挙げられる。具体的には、公道走行実験に関してライセンスを取得する必要もなく、一般利用者への提供についての判断に当たっても州当局に情報を提出する必要もない、との説明がThe Verge記事にはある。ディスエンゲージメント(人間の介入回数)などまで提出・開示が求められるカリフォルニア州に比べるとアリゾナ州ははるかに実験しやすい環境というのは、昨年12月にウーバーがサンフランシスコでの実験サービス提供で同州陸運局(DMV)ともめた際にも、車両をアリゾナに移動させた理由として挙げられていたかと思う。

そのほかフェニックス周辺のデモグラフィー(人口動態)が関係している選考に関係している可能性なども思い浮かぶ(残念ながらこの点に言及したヒントのようなものはみあたらない)。この場合のデモグラフィーというのは住民の人種や所得などに関する多様性と言い換えてもいいが、たとえば同じフェニックス周辺でもヒスパニック系(不法入国者を含む)住民が集中する西側の地域(West Phoenix)は、ほかの地域とはかなり様相が異なるといった話も目にしたことがある。上掲の動画には比較的裕福そうな白人の家族(子供が4人もいる!)が登場するが、こうした人たちだけが調査の対象では公共交通システムとしてのライドシェアサービスを投入する上で不十分なのはほぼ明らかと思え、ウェイモとしてはなるべく多様な参加者を選んで実験を行いたいところではないだろうか。

フィアット・クライスラー製ミニバンについて

両社は一年ほど前に自動運転車開発についての提携を発表していたが、今回のプログラムに使われるChrysler Pacifica Hybridベースの車両はこの提携の一部として明らかにされていたもの。車両自体は昨年12月に公開され、今年初めのデトロイト・モーターショウ(AutoMobili-D)ではクラフチェックCEOによるプレゼンのなかにも実車が登場していた。

同車両のベースとしてミニバンが選ばれたことを手がかりに、通常のライドシェアに加えてカープール(乗り合い利用)も想定されているのではないか、との見方も出ていたかと思う。ウェイモの究極の狙いが道路交通網全体の効率化・最適化であると仮定すれば、公共交通システムの一部を肩代わりするカープール利用に関するデータも欲しいところだ。この取り組みでそうしたサービス形態のテストが行われるかどうかも注目点の1つと言える。

⑫海外ニュースから読み解くウェイモのライドシェア実験