技術および欧米自動車産業人事情報坂和 敏

⑪LiDAR分野に参戦ー米起業家は弱冠22歳

2017.04.25

capture image: Luminar Lidar | First Look(Engadget)

少し前の話になるが、弱冠22歳の創業者が率いる米ベンチャーが3600万ドルの資金をシードラウンドで調達した、というニュースが比較的多くの媒体で掲載されていた。4月半ばのことである。ルミナー(Luminar)というこのベンチャーがこれだけ注目を集めていた理由のひとつは、オースチン・ラッセル(Austin Russell)という創業者兼CEOがピーター・ティール(Peter Thiel)の支援を受けた神童のひとりであるという点。そしてもうひとつの理由は、この会社が開発しているのが自動運転車用のLiDARセンサーだという点だ。ドナルド・トランプを支持して認知度があがったティールの支援、ウェイモとウーバーとの訴訟の焦点にもなっているLiDAR、そしてスタンフォード大をドロップアウトした少壮の起業家とくれば、ITニュースの三題噺(ばなし)といった趣で、媒体側からすればこれほどニュースにしやすいネタも他にない。

ティールが何年か前に発表していた神童奨学金の取り組み「The Thiel Fellowship」については発表当時も大きな話題になっていた覚えがある。「ほんとうに優秀な子供は、大学に行っても時間とお金の無駄で、悪くすると才能をすり減らすことにもなりかねない。代わりに、10万ドル渡すから、2年間好きな研究をやったらいい」という趣旨の奨学金で、かなり狭き門だという印象がある。また同プログラムに選ばれた10代の若者たちのなかからは、すでに何人かそれなりの実績を残した起業家が生まれていることがThiel Fellowshipのページをみるとわかる(先日アップルに買収されたWorkflowというアプリを開発した二人組もそうした成功例のひとつらしい)。

ルミナーのラッセルCEOも、そんなちょっと毛色の変わった、けれども見方によっては血統書付きともいえる人材のひとりデあるらしい。たとえば同社について報じていた3月末付のBloomberg記事には、たとえば「小学校6年の時にNintendo DSを勝手に改造して携帯電話をつくっていた」「15歳のときにはホログラムのキーボードを開発した」といった武勇伝も紹介されている。

さて、そんなラッセル率いるルミナーが開発しているのが半導体ベースのLiDARで、現在ベロダイン(Velodyne)などから出ているものに比べてはるかに低価格で、しかもより高精度の製品を投入する計画だという。具体的な価格については、ベロダインの既存製品(ローグレードのもの)が約8000ドル、そしてクァナジー(Quanergy)という会社の製品が約4000ドルであるのに対し、ルミナーでは1000ドルよりもかなり安い金額で販売可能な製品をまずは投入し、3〜4年後には100ドルを切る製品の開発も視野に入れているといった記述がBloomberg記事にはある。

また製品の精度については、1550ナノメートルの波長のレーザーを発信することにより905ナノメートルの波長を使う他社製品よりも遠くにあるものまで検知できるようになるという。Technology Reveiw記事ではこの違いについて、暗所では他社製品の4倍の距離のものまで検知できるとし、「時速70マイルで走行していた場合、100メートル以上遠くのものまで検知できれば、3秒の余裕が生まれる」とする専門家のコメントが紹介されている。同時に、ルミナーが自社設計したLiDAR用半導体の素材がインジウムガリウムヒ化物(indium gallium arsenide)である点を挙げ、それが低価格化を進める上でボトルネックになる可能性があるとするクァナジーの指摘も引用されている。

なお、Bloomberg記事の終わりには「かつて1基6万ドルもしたレーダーがいまでは80ドルで手に入るようになっている。LiDARでも同じことが起こらないわけがない」とするセバスティアン・スラン(Sebastian Thrun、Google X創業者)のコメントが紹介されている。また実際に、クァナジーは昨年9月に1基250ドルで販売できるLiDARの製造を今年中に開始すると発表。さらに今月19日には、ベロダインからもローコストの新製品投入に関する発表が出されていた(価格設定などは不明)。ルミナーではすでに初期ロット1万基の製造に向けた準備を進めているそうだが、ベンダー間の開発競争が進むなかで時間との闘いという印象も受ける。

先月にはインテルがモビルアイ(Mobileye)を約153億ドルで買収すると発表し、自動運転車関連の基幹技術に対する評価の高さをあらためて印象づけていた。また、Bloomberg記事ではベロダインが予想する自社製品の出荷台数が、今年1万2000基、来年8万基、2022年170万基と紹介している(LiDARの市場規模に関する予測等は見当たらない)。ルミナーや競合他社を支援する投資家連中は、モビルアイと同様の大成功を視野に入れているのかもしれない。

【参照情報】
The 22-Year-Old at the Center of the Self-Driving Car Craze – Bloomberg
This college dropout says he’s cracked the crucial component for self-driving cars – Technology Review
This 22-year-old CEO has raised $36M to improve self-driving cars – Axios
Luminar makes lidar sensors to help self-driving cars see farther – SFGate
This 22-Year-Old CEO Wants To Help Make Self-Driving Cars Affordable – Fast Company
Velodyne LiDAR Announces New “Velarray” LiDAR Sensor – Businesswire

⑪LiDAR分野に参戦ー米起業家は弱冠22歳