技術および欧米自動車産業人事情報坂和 敏

⑩ウーバーvsウェイモ、自動運転関連訴訟のタイムライン

2017.03.24

ウーバーの自動運転車開発責任者、アンソニー・レヴァンドウスキィが元の勤め先であるグーグルから不正に情報を持ち出したとしてアルファベット傘下のウェイモが同氏とウーバーを訴えていた件で、その後ウェイモ側から裁判所に提出された追加書類の情報などが一部の媒体で伝えられている。今回はこの件について一連の動きが時系列に沿って整理されているRecode記事を参考にしながら、その後明らかになったことなどをアップデートする。

Recodeの記事のなかでまず目を引くのは、レヴァンドウスキィが2015年夏の時点ではやくもウーバーの幹部と接触していたという点。レヴァンドウスキィがこの時話をした相手は、ブライアン・マクレンドンという地図関連技術の責任者。マクレンドンはGoogle Earthの基になった技術を開発したキーホール社(2004年にグーグルが買収)の出資者・共同創業者で、2015年6月までグーグルに勤務していた人物。自動運転車開発プロジェクトに加わるまでGoogle Map関連の仕事をしていたレヴァンドウスキィとは以前から面識のあった可能性も十分考えられる。

この時ふたりは、自動運転車関連の新しいベンチャーを立ち上げるというアイデアや、そうしたベンチャーができればウーバーが買収に興味を持つだろうといった話をした。またこの話し合いのことを後でレヴァンドウスキィから聞いた同僚のピエール・イブ・ドゥロズは、グーグルでLiDARを開発しているチームを買うことにウーバーが興味を持つだろうという話だったと証言している。ドゥロズは、レヴァンドウスキィが立ち上げ、のちにグーグルに買い取らせた510 Systems社の共同創業者で現在もウェイモに在籍中の人物だそうだ。

またウーバーがもともと昨年8月をめどに自動運転車の公道実験を開始する計画であったという点も目を引く。

「トラビス・カラニック(ウーバーCEO)が、社内での開発の進捗に不満を募らせていた」「この目標期限に間に合わないことが明らかになり、カラニックがレヴァンドウスキィの力を借りることにした」「その直後にオットーがスティルスモードから抜け出した」といった情報筋の話が紹介されているが、オットーの会社立ち上げがニュースになっていたのが昨年5月半ばのことだったので、昨年春あたりまでは開発が難航していたとの節も伺える。

そのほか、昨年1月下旬にグーグルを(事前告知なしで)辞めたレヴァンドウスキィがその直後にウーバーとコンサルタント契約を結び、ピッツバーグにあるウーバーの開発拠点に出入りするようになっていたとの話もある。この点についてRecodeは、自分たちの会社を立ち上げたばかりの人間が競合する可能性のある相手の仕事を手伝うのは不自然などと指摘している。

なお、ウェイモは先週、自社の技術(に関する知的財産)をウーバーが使用することを禁じる差し止め請求を裁判所に提出していた。この判断が出るまでにどれくらいの時間がかかるかなどはわかっていない。

提訴までのタイムライン

2015年夏
ブライアン・マクレンドンとレヴァンドウスキィが接触。

2015年11月17日
レヴァンドウスキィがオットーの前身である280 Systems社のドメインを登録

2015年12月11日
レヴァンドウスキィが、グーグル社内のサーバーから9.7 GBのデータ(ファイル類)を会社支給の自分のノートPCにダウンロード

2015年12月14日
ダウンロードしたファイル類を自分のメモリーカードにコピー。その後18日にはダウンロードに使われたPCのOSをWindowsからGoobuntu(グーグルがカスタマイズしたUbuntu)に入れ替え(隠蔽工作?)

2016年1月5日
レヴァンドウスキィがドゥロズに、新たに自分の会社を立ち上げ、そこでグーグルの技術(LiDARを指す)を再現する(”replicate”)つもりであることを打ち明ける。

2016年1月14日
レヴァンドウスキィの姿がウーバー本社で目撃され、その話がドゥロズの耳に届く。この件を問いただしたドゥロズに対し、レヴァンドウスキィはウーバー本社に足を運んだことや、新会社に出資する投資家を探していることを認める。

2016年1月15日
レヴァンドウスキィが280 Systems社を法人登記

2016年1月27日
レヴァンドウスキィがウェイモを事前告知なしで退社

2016年2月1日
レヴァンドウスキィが280 SystemsをOtto Truckingに名称変更(オットーの設立)

2016年2〜3月
レヴァンドウスキィがウーバーのコンサルタントとして、ピッツバーグにある開発拠点に姿を見せ始める。

2016年春
カラニックとレヴァンドウスキィとの間で、ウーバーによるオットー買収の可能性が検討され始める。

2016年5月17日
オットー、”スティルスモード”から抜け出る。

2016年8月(前半)
レヴァンドウスキィがグーグルから最後の報酬を受け取る。

2016年8月18日
ウーバー、オットーの買収を発表。

2016年8月
2013年夏の出資時にウーバーの社外取締役に就寝していたグーグルのデビッド・ドラモンドが同職を退任。

2016年12月13日
ウェイモと取引していたLiDAR開発ベンダーからウェイモ社員あてに、間違って「OTTO FILES」と題された電子メールが送られてくる(犯行が発覚)。ウェイモが調査を開始。

2017年2月9日
ネバダ州の記録から、オットーが自社で開発したとする64チャネルのLiDAR技術(ウェイモのそれと同等のもの)の存在が確認されたことで、ウェイモが提訴に踏み切ることに。

2017年2月23日
ウェイモがウーバーならびにレヴァンドウスキィを提訴

【参照情報】
The Uber Bombshell About to Drop – Daniel Compton
The exec at the center of Alphabet’s Uber lawsuit worked for Uber earlier than we thought
Alphabet’s Waymo filed an injunction against Uber for allegedly stealing intellectual property
One of Uber’s top self-driving engineers, Raffi Krikorian, is stepping down
Uber’s First Self-Driving Fleet Arrives in Pittsburgh This Month

⑩ウーバーvsウェイモ、自動運転関連訴訟のタイムライン