技術および欧米自動車産業人事情報坂和 敏

⑬「空飛ぶ自動車」を夢見る自動運転車の生みの親

2017.05.24

capture image: See Google co-founder Larry Page’s ‘flying car’ in action(CNNMoney)

Kitty Hawk Flyerという空飛ぶ自動車が4月下旬に発表されて一部でニュースになっていたが、この件について開発元のベンチャー企業でCEOを務めるセバスティアン・スランに対してスティーブン・レヴィがインタビューした記事が先頃Backchannelで公開されていた。

Sebastian Thrun Defends Flying Cars to Me

空飛ぶ自動車などまだ荒唐無稽な話に過ぎないと個人的にはそう感じる一方、その研究開発にラリー・ペイジ(アルファベットCEO)が身銭を切り、またスランをはじめとするグーグルX(研究開発部門)出身者も関与しているとなると、絵空事と一概に片付けられないという感じもする・・・そんな興味から目を通したこの記事のなかから気になった点をいくつか紹介する。

現在の自動車よりも低価格に

レヴィは空飛ぶ自動車ーーデモ動画が発表されたKitty Hawk Flyer自体ではなく、ペイジやスランらがその延長線上に見据える新しい乗り物について、安全性、コスト、騒音、空の混雑、駐車スペース、法律(規制)、そして必要性(そもそもどうして必要なのか)といった点に関する質問をしている。それに対する答えの中でまず目を惹くのが価格で、スランは「いずれは現在の自動車よりも低価格になると確信している」と述べている。ただし具体的な金額には触れていないので、それが2万ドル程度なのか、それとも10万ドル以下なのかといったところは判別がつかない。

騒音についても、現在の乗用車と同程度になる可能性があるとスランは答えている。ドローンというとプロペラ音がやたらと騒がしいといったイメージがあるが、スランは「電動で飛行する乗り物は、潜在的にはハチドリと同じくらい静かになる」可能性があると述べているので、すでにそうした技術を実現するための筋道が彼らの頭の中にはあるのかもしれない。なお、動力源として気になるバッテリーの問題に触れた応答はない。

空飛ぶ乗り物でいちばん気になる安全性の確保については、現在の旅客機に近いコンピュータ制御を目指しているようだ。小型機は旅客機に比べて事故を起こす確率がずっと高いというレヴィの指摘に対し、事故原因のほとんどはパイロットのエラーによるものだとスランは答えている。人為なミスがなくせれば、事故は激減できるというのは地上を走る自動車の場合と同じかもしれない。

またスランが「操縦に関する難しい部分はコンピュータにやらせて、人間は簡単なところだけやるようにすればいい」と述べているところにも、地上を走る車の場合と同じ考え方が感じられる。なお、発表されたFlyerはテレビゲームのジョイスティックのようなインターフェイスが実装されていて、操縦者が手を離すと、機体は空中で制止する仕組みになっているという。

宙に浮かぶ仮想のハイウェイ

空飛ぶ乗り物が数百万とか数千万といった数で普及した場合には、いまは比較的がら空きの空中でもさすがに混雑したりはしないかとの問いに対して、スランは「仮想のハイウェイを空中に何層にも重ねて設置することができる」「そうしたハイウェイには交差点はない(から渋滞もおきない)」などと答えている。また旅客機やドローン(無人機)も含めて、全体をコーディネートすることで衝突を回避する仕組みをつくれるとも指摘している。もっともこれはそういう方法が考えられるというだけのことかもしれない(地上を走る車でさえ、そういう仕組みはまだ実装されていないのだから)。

また自家用車に代わる存在として空飛ぶ乗り物が普及した場合に、駐車スペースはどうするのかという質問に対しては、いまはまだ(答えは)わからないとスランは述べている。

なお、空飛ぶ乗り物開発の目的として、スランは道路の渋滞が社会全体に及ぼす影響を挙げている。さらに、規制に関してはすでにFAA(連邦航空局)関係者と頻繁に話をしているといったことを口にしているが詳しい事柄には触れていない。

最後になるが、ラリー・ペイジが空飛ぶ自動車の研究開発に個人的に入れ込んでいるという話は、一年ほど前にBusinessweekの特集記事で伝えられていた。この記事によると、ペイジはキティホーク社のほかに、ジー・エアロ(Zee.Aero)というベンチャーにも資金援助しているという。また、キティホーク社にはグーグルで自動運転車の開発に携わっていた人間がスランの他にもいるとある。アルファベットのCFOが、モルガンスタンレー出身のRuth Poratになって以来、アルファベットでは「ムーンショット」(困難だが実現すれば大きなインパクトをもたらす挑戦的な課題)と呼ばれる冒険的な取り組みがやりづらくなっている印象がある。ペイジが自腹を切って空飛ぶ自動車の研究を進めている背景にはそうした事情もあるのかもしれない。

【参照情報】
Welcome to Larry Page’s Secret Flying-Car Factories

⑬「空飛ぶ自動車」を夢見る自動運転車の生みの親